マーケティング

『鬼滅の刃』ヒットのからくりをイノベーター理論で読み解く(2ページ目)

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、なぜここまで爆発的なヒットを記録したのでしょうか? 子どもだけでなく幅広い世代に人気の理由を、マーケティング戦略における「イノベーター理論」の視点から分析します。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

 

イノベーター理論の視点から『劇場版「鬼滅の刃」無間列車編』の爆発的なヒットのからくりを読み解く

さて、それでは『劇場版「鬼滅の刃」無間列車編』はどのようなマーケティング戦略を駆使してわずかな期間で日本歴代1位に迫る爆発的なヒットを記録したのでしょうか? その変遷を辿っていきましょう。

『鬼滅の刃』は2016年2月に週刊少年ジャンプで連載をスタートさせます。コミックスの第1巻は2016年6月に発売されましたが、2018年6月までコミックス計11巻の累計発行部数は250万部程度でした。大正時代の人喰い鬼が巣食う世界で、主人公の炭売りの少年・竈門 炭治郎(かまど たんじろう)が、人喰い鬼に家族を惨殺され、唯一生き残ったが鬼にされてしまった妹の禰豆子(ねずこ)※を人間に戻すため、鬼を討つ旅に出るストーリーは、「イノベーター」や「アーリーアダプター」の心は捉えていたものの、爆発的なヒットの鍵を握る「アーリーマジョリティ」にはまだまだ届いていなかったのです。※禰豆子の禰は「ネに爾」が正式表記

そこで「アーリーマジョリティ」にアプローチするために取った方法が、アニメ化でした。2019年4月からアニメの放送が開始。実際に見てみると分かりますが、『鬼滅の刃』は、戦闘シーンなどアニメ化されることによりその魅力が飛躍的に高まります。しかもアニメ制作に携わったのは美しい映像制作に定評があるufotable(ユーフォーテーブル)。

ufotableが織り成すアニメの世界観にマッチする幻想的な映像で、視聴者は『鬼滅の刃』のアニメを見始めるとその世界観に一瞬で惹き込まれます。このアニメは2019年9月まで全26話が放送されましたが、この放送終了時にはコミックス累計発行部数は1200万部に到達。この段階で着実に「アーリーマジョリティ」が消費の輪に加わったといえるでしょう。
『鬼滅の刃』のコミックスは全国で品薄状態に(image:sumito / Shutterstock.com)

『鬼滅の刃』のコミックスは全国で品薄状態に(image:sumito / Shutterstock.com)
 

さらに『鬼滅の刃』ブームを加速させるために一役買ったのが、Netflixなどの定額動画配信サービスです。通常テレビ放送のアニメは見逃してしまえば再放送まで見ることができません。一方、定額動画配信サービスでは、自分の都合のいい時間にアニメを視聴することができます。新型コロナウイルス感染症の拡大で定額動画配信サービスの契約が急速に伸びる中、「追加料金がかからなければ世間で噂になっているアニメを見てみよう」と興味を持つ人が増え、そのまま「鬼滅の刃」の虜になった人達も多いことでしょう。

消費者を購入に走らせるためには、気持ちが高まったタイミングで商品を提供する必要があります。アニメが評判になっているものの、すぐに見ることができなければ、購入に対する熱もいずれ冷めてしまいます。そこで、定額動画配信サービスがその熱の橋渡しを行い、『鬼滅の刃』熱が冷めない間にコミックスなどの購入行動につなげていくことができたといえるでしょう。結果として、この『鬼滅の刃』のアニメ化以降、コミックスの売り上げはうなぎのぼりとなり、2020年10月には遂に累計1億部の発行部数を超えることになるのです。

>次ページ、『鬼滅の刃』が記録をさらに伸ばす鍵となるのは?
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