マーケティング/マーケティング事例

アサヒは「ザ・ドリーム」でビール戦争を勝ち残れるか(2ページ目)

アサヒビールが7年振りにスタンダードビールの新作「アサヒ ザ・ドリーム」を発売しました。ここ最近ビール市場は縮小傾向にありましたが、業界リーダーのアサヒビールのてこ入れで盛り上がりを見せるのか? サントリーなどライバルの動向も踏まえ今後のビール市場を占っていきます。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

一足先にスタンダードビールの強化を図ったサントリー

ザ・モルツ

サントリーの「ザ・モルツ」は販売計画を大幅に上方修正するなど予想を上回る売れ行き。

アサヒビールの7年振りのスタンダードビール投入に遡ることおよそ半年。ライバルのサントリーは、やはりビールの減税による市場の拡大を見越して新製品を投入します。

サントリーは、プレミアムビールで「プレミアムモルツ」、第3のビールで「金麦」というそれぞれのジャンルでトップブランドを抱えますが、スタンダードビールにおいては「モルツ」が思うようなシェアを獲得できずに苦戦してきました。そこで、スタンダードビールの分野でも存在感を示すべく、思い切った戦略に打って出ます。

それまで主力ブランドであった「モルツ」をすっぱりと諦め、新たなブランドとして「ザ・モルツ」を立ち上げたのです。この「ザ・モルツ」では、ターゲットを30代から40代を中心とした若年層に定めて取り込みを図ります。この世代は一般的にビール離れが進んでいる消費者層になりますが、自分のブランドを決めておらず、いろいろな味を楽しみたいという特徴を持っているため、この層に受け入れられるテイストを実現できれば、多くのファンを取り込むことができるというサントリーの読みが働いたのです。

そこで、サントリーは新たなビールをゼロから開発することに着手し、“心地よい苦み・コクとほのかな甘みの複層的な味わい”である「UMAMI」を実現することに成功しました。ネーミングは「モルツ」から「ザ・モルツ」と小さな変化に留めましたが、中身は全く違ったビールに仕上がったのです。

そして、サントリーがプロモーションに本腰を入れた結果、「ザ・モルツ」は発売以来わずか1カ月で134万ケースと2015年度の販売目標の200万ケースの7割に達するなど、上々の滑り出しを見せます。10月には早々に計画の9割に達したことから販売目標を1.5倍の300万ケースに上方修正するなど、予想を上回る売上を記録することになるのです。


対照的な戦略でビール戦争はさらにヒートアップしていく!

今後のスタンダードビール市場の拡大を見越して、まず仕掛けたサントリーは、これまで築いてきたブランドを捨て去って、ゼロから新たなブランドを築きマーケットでの存在感を高める戦略に打って出ました。

一方、ここ最近伸び悩んでいるとはいえども今だスタンダードビールで圧倒的なシェアを誇る「スーパードライ」を擁するアサヒビールは、“一本足打法”から脱却すべく、もう一つのブランドを立ち上げ、2トップでさらなるシェアの拡大を図ります。

チャレンジャーであるサントリーにとっては、シェアが低迷するブランドを捨て去って新たなブランドに資源を集中させて一点突破を狙う戦略であり、業界リーダーのアサヒビールは、盤石なブランドでシェアを確保しながら、新たなブランドを投入してマーケットの拡大やシェアアップを図る戦略といえるでしょう。

これらの戦略は、業界のリーダー、そしてチャレンジャーの理に適ったものですが、果たしてどちらの戦略がより効果を発揮するのか?

“ビール戦争”は、需要の最盛期である夏に向けて益々ヒートアップしていきそうです。

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