「パワハラはいけない」と知っているのに、なぜなくならないのか?

首をかしげるサラリーマン

パワハラの相談だけが激増し続けている謎――その背景の一つに、加害者が自分の言動を「パワハラ」と認識していない点が考えられます

職場内の優位性を利用した嫌がらせを意味するパワーハラスメント・「パワハラ」。今や知らない人がいないほど、有名な言葉になりました。ところが、この言葉はみんなが知っているのに、パワハラの発生はなかなかなくなりません。

『個別労働紛争解決制度施行状況』(厚生労働省)によると、平成28年度に都道府県労働局等の総合労働相談コーナーに寄せられた「いじめ・嫌がらせ」の相談は7万917件。解雇や労働条件の引き下げ、退職勧奨などの他の労働相談の多くが減少・横ばい傾向にあるなか、いじめ・嫌がらせの相談だけが激増し続けているのです。

平成24年には厚生労働省でのパワハラの定義づけが行われ、多くの組織で防止対策が強化されています。ひどいいじめ・嫌がらせを継続的に受けて社員が精神疾患になり、損害賠償責任が生じた場合には、加害者・事業主には多くの負担が生じてしまいます。それなのに、なぜパワハラはなくならないのでしょう? 背景には様々な理由が考えられますが、その一つに、加害者が自分の行為を「パワハラ」にあたると自覚していないことが考えられます。
 

「上司から部下」に行われるパワハラが圧倒的に多い

厚生労働省が発表している概念では、パワハラは「職場内の優位性を背景」にして発生する行動であり、「上司から部下」に限定されているわけではありません。たとえば、正規職員・非正規職員の間、同僚同士、部下から上司に対して行われるものも含まれます。

とはいえ、平成24年度『職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書』(厚生労働省委託事業)によれば、約2,300人が受けたパワハラのうち、上司から部下に対して行われたケースの割合が77.7%に上っており、他のケースを大きく引き離しています。つまり、圧倒的多数が「上司から部下」に対して行われています
 

信頼関係がないと「パワハラ」と受け止めやすい

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上司・部下間のコミュニケーションが希薄だと、信頼関係も生まれない

では、どうしてパワハラが起こるのでしょう? パワハラが発生しやすい環境要因の一つに、上司・部下間の信頼関係の欠如が考えられます。先の『実態調査報告書』でも、パワハラ相談があった職場で最も多かったのが(51.1%)、「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」でした。

たとえば、次のような上司・部下間のコミュニケーション不全が、部下の不満につながっているものと考えられます。
  • 上司と会って話す機会がほとんどない
  • 指示はメールだけで、要件だけのそっけない内容
  • 部下が行っている仕事に、関心を寄せていない
  • 数値やクレームの内容だけで、部下の仕事を判断する
  • 部下の頑張っている姿を見ていない、労いの言葉がない
このように、部下とのコミュニケーションを重視せず、部下の働き方に関心を持たない上司に対して、部下は不信感を持ちやすいのです。そうした上司から批判を受けると、部下は自分の仕事ぶりを全否定されたように、重大に受け止めやすくなるのです。

上司は仕事に追われ、部下とじっくりコミュニケーションをとる余裕がないだけなのかもしれません。業務上必要なことを伝えているだけで、部下の仕事ぶりを否定しているわけではないのかもしれません。とはいえ、上司のことを信頼できないと、部下はそうした上司の心情・事情を察することができず、ただ上司の言葉や態度を恐れ、「パワハラ」と感じてしまうことがあります。
 

一段高いポジションに立つことで、気づかぬうちに態度が大きくなる

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上のポジションに立つと、自分の言動を部下がどう受け止めているのかに気づきにくくなる

また、上司という一段高いポジションに立つと、無自覚のうちに態度が大きくなってしまうことも多いものです。

すると、上司の機嫌を損ねないように部下は気を遣います。上司からマイナスの評価を受けることを恐れ、思ったことを言えなくなってしまいます。部下がこのように上司に合わせて配慮し続けていると、上司はさらに自分が部下に与えているプレッシャーに気づきにくくなります。

こうした上司に対し、部下は態度には表せなくても心の底で「パワハラ」だと感じ、苦悩していることも少なくないのです。
 

ハイパフォーマー上司は部下の気持ちが分かりにくい?

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「なぜできないんだ!」と言われても、部下には答えが見つからない

また、上司に抜擢される資質を持つ人は、そもそもが「ハイパフォーマー」、つまり優秀な頭脳、機敏な行動力、高いコミュニケーション能力、不屈の精神を持つ優れた人材であることが多いものです。こうしたハイパフォーマーには、そうでない人の心情をなかなか理解できないものです。たとえば次のように――。
  • 自分は1日でできる仕事に3日間かけている部下に、「なぜ、簡単な仕事に時間をかけてるんだろう?」と感じてしまう
  • 先を見越して器用に手を打てない部下に、「なぜ、先を読もうとしないんだろう?」と感じてしまう
  • 少し叱ると凹む部下に、「打たれ弱い。自分はこの何倍もの叱責に耐えてきたのに」と感じてしまう
このように、自分と同じパフォーマンスを出せないことを認められず、部下を「努力不足」や「精神力不足」と叱責してしまうことで、「パワハラ」と捉えられる例も少なくありません。
 

パワハラ対策……上司は言動を振り返り、部下は窓口に相談を

このように上司は、部下との信頼関係の欠如、ポジションがもたらすパワー、ハイパフォーマーであるがゆえの価値観から、無自覚のうちにパワハラをしてしまうことがあります。したがって、上司になったら自分の言動がパワハラに当たらないかどうかを常に点検することが大切です。詳しくは「「パワハラ」と言われる前に知るべき6つの行為類型」をご参照ください。

また部下の立場にある方は、上司の言動を苦痛に感じた時には、自分が抱える思いを信頼できる人に相談してみてください。または、職場内外のハラスメント相談窓口に相談をしてみることをお勧めします。
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