パワハラ相談件数だけが増え続ける謎

首をかしげるサラリーマン

どうしてパワハラはなくならないのだろう……

職場内の優位性を利用した嫌がらせを意味するパワーハラスメント・「パワハラ」。今や知らない人がいないほど、有名な言葉になりました。ところが、言葉の認知は広まっているのに相談件数は年々増え続け、悩んでいる人は減っていないように思えます。

『個別労働紛争解決制度施行状況』(厚生労働省)によると、平成24年度に都道府県労働局等の総合労働相談コーナーに寄せられた「いじめ・嫌がらせ」の相談は10年前の約8倍弱で、51,670件に上ります。解雇や労働条件の引き下げ、退職勧奨などの相談が減少、横ばい傾向にあるなか、いじめ・嫌がらせの相談だけが増え続けているのです。

パワハラなどの嫌がらせは、精神疾患の労災認定基準の要件の一つでもありますし、損害賠償命令が出た場合の賠償金額も多額です。2012年には厚生労働省でのパワハラの定義づけが行われ、職場の予防、解決対策は強化の傾向にあります。それなのに、パワハラの相談がなくならず、増加し続けているのはなぜなのでしょう? そこには、加害者が自分の行為を、「パワハラ」と自覚しにくいことが影響していると思われます。

パワハラは「上司から部下」が圧倒的に多い

厚生労働省の定義では、パワハラは「職場内の優位性を背景に」とあり、上司から部下への嫌がらせのみに、限定されているわけではありません。正規・非正規の職員間、同僚同士や部下から上司に対して行われるものも含まれます。

とはいえ、2012年度『職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書』(厚生労働省委託事業)によれば、約2,300人が受けたパワハラのうち、上司から部下に対して行われたケースの割合が77.7%に上っており、他のケースを大きく引き離しています。つまり、パワハラの圧倒的多数は「上司から部下」に対して行われるものと考えて、間違いありません。

信頼関係がないと「パワハラ」と受け止めやすい

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コミュニケーションが希薄なら、信頼関係も生まれない

では、どうしてパワハラが起こるのでしょう? パワハラが発生しやすい環境的要因の一つに、上司―部下間の信頼関係の欠如が考えられます。先の『職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書』でも、パワハラ相談があった職場の半数以上(51.1%)に「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」が認められています。

実際、私が相談を受けた例でも、次のような上司―部下間のコミュニケーション不全が、部下の不満につながっていると感じます。
  • 上司とフェイス・トゥ・フェイスで話す機会がほとんどない
  • 指示はメールだけで、しかも要件のみのそっけない内容
  • 部下が行っている仕事に、関心を寄せていない
  • 数値やクレームだけで、仕事ぶりを判断する
  • 頑張って仕事をしているのに、労いの言葉一つない
日ごろからコミュニケーションを重視せず、部下の思いや仕事のプロセスに関心を持たない上司に対し、部下は不信感を持ちやすいのです。そのため、上司―部下間の信頼関係によって、上司の言葉や態度の受け取り方は、次のように180度変わってしまいます。

・上司から「お前、馬鹿だなぁ」と言われた
→ 信頼している上司なら:「かまってくれた」と感じる
→ 信頼してない上司なら:「侮辱的な言葉で批判された」と感じる

・道端であいさつしたのに、上司から何も反応がなかった
→ 信頼している上司なら:「考え事をしていたのかな?」と感じる
→ 信頼してない上司なら:「無視された」「軽視されている」と感じる

つまり、信頼関係が築かれていないと、部下は上司の何気ない言葉や態度を「批判」や「攻撃」とマイナスに受け取りやすいということです。

上司はコミュニケーションを軽視しているわけではなく、仕事に追われ、話をする余裕がないだけなのかもしれません。部下に業務上必要な指導をしているだけで、攻撃のつもりなどないのかもしれません。とはいえ、信頼関係ができていないと、部下はそんな上司の事情や心情を察知する気すら起こらず、言葉や態度をマイナスに受け止め、「パワハラ」と感じてしまいます。

では次に、「パワハラをする上司の心理」について考えてみましょう。

肩書・地位の持つ「万能感」がパワハラ行為の原因に?

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人より上の地位に立つと、歯に衣着せぬ言葉も言いやすくなる

人は「パワー」を持った途端に尊大になりやすく、万能感を感じやすくなる、という心理的要因があります。これもパワハラの発生に大きく影響します。

上司という一段高い地位に上ると、無意識のうちに態度が尊大になってしまうことは多いもの。地位と肩書から、周りより優れている、指揮する権限を持つという優越感や、「なめられないように威厳を示さねば」という焦燥感などから来るものだと考えられます。

そんな上司の機嫌を損ねないよう、部下たちは気を使って持ちあげますし、上司からにらまれることを恐れて、理不尽なことを言われても、何も言わなくなってしまいます。部下がそんな態度で従ってくれると、上司はますます自分の力を過信し、万能感を感じやすくなります。こうして万能感に陶酔していくにつれ、平気で部下を傷つける発言をし、部下を自分の都合のいいように扱ってしまう上司は少なくありません。

こうした上司に対し、部下は態度には表さなくても、心の底で「パワハラ」だと感じ、恨んでいることが少なくないのです。

ハイパフォーマー上司は部下の気持ちが分かりにくい?

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「なんでできないんだ!」と言われても、部下には答えが見つからない

さらには、「できる上司」は部下の心情を理解しにくいことも、パワハラにつながりやすくなります。

上司に抜擢される資質を持つ人は、そもそもが「ハイパフォーマー」。優秀な頭脳、機敏な行動力、高いコミュニケーション能力、不屈の精神を持つ優れた人材であるということです。こうしたハイパフォーマーには、そうでない人の心情をなかなか理解できないものです。たとえば次のように――。
  • 自分なら1日でできる仕事に3日もかけている部下に、「なんで簡単な仕事に時間をかけてるんだ? のろまだな」と感じてしまう
  • 早めに手を打たず、課題を放置している部下に、「空気を読めない奴だな。いつもボケっとしてるからだ」と感じてしまう
  • ちょっと叱っただけで凹んでしまう部下に、「打たれ弱いなぁ。俺なんかこの何倍もの叱責に耐えてきたのに」と感じてしまう
このように、自分のようなパフォーマンスを出せない部下の行動を分析せず、改善のためのサポートもせずに、「努力不足」や「精神力不足」と決めつけることで、部下から「パワハラ」と捉えられる例も少なくありません。

パワハラ対策……上司は言動を振り返り、部下は窓口に相談を

このように上司は、信頼関係の欠如や地位がもたらす万能感、ハイパフォーマーゆえの無知さから、無意識のうちにパワハラを起こしてしまうことがあります。したがって、上司は自分の言動がパワハラに当たらないかどうか振り返ることが大切です。詳しくは「「パワハラ」と言われる前に知るべき6つの行為類型」をご参照ください。

また、部下は上司がなぜパワハラをしてしまうのかといった背景を理解し、機会があれば上司や周囲と話し合ってみてください。話し合う余地すらない、目をつけられるのが怖い、という人は、職場や地域のハラスメント相談窓口に相談をしてみることをお勧めします。
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