「パワハラとは?」 まずは定義と行為類型を押さえよう

定義と行動類型を知らないと、指導のつもりがパワハラになってしまうことも
指導のつもりで言った言葉や、相手のためを思って指摘したことを「今の言葉、きついですよ。パワハラになってしまうかもしれないから、注意した方がいい」などと言われて、ハッとしたことはありませんか? 「若い頃は、私も同じこと毎日言われてたのに」「このくらいでパワハラと言われるなんて……」という気持ちがあるかもしれません。しかし、パワーハラスメントは2019年5月に改正された労働施策総合推進法により、明確な定義づけがされています。
また、2012年には厚生労働省から行為類型も発表されています。その類型によると、下の6つの行為は、パワハラに当たるので注意しましょう(ただし、これだけをパワハラだと限定しているわけではありません)。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
- 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」2012より
パワハラの種類……暴力、暴言以外もパワハラ行為とみなされる?

「気がつけば、いつも私だけ別室で仕事をさせられている」――それもパワハラかも!
(1)の身体的攻撃は、叩いたり、殴ったり、蹴ったりという身体的暴力です。これは、一度でも行えばパワハラです。(2)から(6)までの行為は、反復性が問われます。ただし、「一度だけ」と思っていても、無自覚のうちに反復していることがあります。「一度でもやらない」ことを前提に考えましょう。
たとえば、部下を指導する際に、「君は何をやらせてもダメだな……」「また失敗か。使えない奴だな」といった人格を否定するような言葉を繰り返し継続的に伝えている場合は、(2)の精神的な攻撃のパワハラになります。また、気に入らない人を無視したり仲間外れにしたりする場合は、(3)人間関係からの切り離しのパワハラです。
私用で部下を使い回したり、達成不可能なノルマを課したりするのは、(4)過大な要求のパワハラ。能力や経験に見合わない程度の低い仕事ばかり与えたり、意図的に仕事を与えず手持ち無沙汰にさせるのは、(5)過小な要求のパワハラ。プライベートの自由を侵害して、休日に無理に付き合わせたり、個人的なことを詮索したりするのは、(6)個の侵害のパワハラです。
こうした行為は、ハラスメントという意識を持たずに行っていることが多いものです。しかし、これらは「パワーハラスメント」と見なされる行為です。
部下から上司・同僚の間でもパワハラになる可能性も

パワハラは、「上から下」の一方向のみで行われるとは限らない
一般的には、「パワハラ」は「上司から部下へ」の行為だと思われることが多いと思います。しかし、パワハラは地位や立場に限った行為ではありません。職場におけるパワーハラスメントは、2019年5月に改正させた労働施策総合推進法で次のように定義されています。
「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境を害されること」
この中の「優越的な関係」については、深く理解しておく必要があります。職場には「地位」以外のさまざまな優越性があり、それらを背景にしてパワハラが発生していることがあります。
たとえば、ベテランが新入りを仲間外れにする、専門性の高い知識を持つ人がそうではない人を馬鹿にする、気の弱い人を集団で無視する――こういった「優越的な関係」を背景にしたパワハラは、職場の中でよく目にする行為ではないかと思います。つまり立場や地域に限らず、誰でも加害者になる可能性があり、被害者になる可能性もあるということです。
「業務上必要かつ相当な範囲」についても、しっかり理解しておく必要があります。たとえば、相手の行動の誤りに気づいた時に「ここを間違えていますね。ここをこのように修正してください」というように修正すべきポイントを端的に伝えるのは、適正な範囲での指導と言えます。
しかし、相手が既に理解し、反省しているのに同じ注意を何度も繰り返して叱り続けたり、相手の人格を否定する言葉を交えて叱る。こういう場合は、「適正な範囲」の業務から逸脱しています。
パワハラ対策・パワハラ対処法

パワハラの被害に悩むときには、相談窓口や信頼できる人に相談することも大切です
「パワハラを受けているのかも?」と感じる方は、ご自分が受けている行為が上記「6つの行為類型」に当たるのかどうか、よく振り返ってみることが大切です。
そしてパワハラに気づいたら、周りの信頼できる人に相談したり、職場の相談窓口、自治体にある電話相談窓口などに相談してみるといいでしょう。また、都道府県労働局の総合労働相談コーナーなどでも、相談に乗ってもらえます。
「どんな屈辱にも耐えられなければ、仕事では生き残っていけない」「家族を養うためにも、何を言われても堪えなければ」というような考えから、耐えがたい苦痛を受け続けているのに我慢してしまう方もいます。しかし、そうしてストレスを抱え込むと、やがて心の病を発症してしまうこともあります。
パワハラに気づくにはまず、つらい、怖い、苦しいといった自分の素直な感情に気づくことが大切です。そして、自ら相手に働きかけることに限界を感じるなら、周囲に相談をしましょう。話を聴いてもらえるだけで楽になることもありますし、解決につながる助言やサポートを受けることもできるでしょう。
仕事での苦労を乗り越えることは、「パワハラに耐えること」ではありません。労働者には、パワハラにつぶされずに仕事をする権利があります。パワハラに気づいたらその問題を抱え込まず、相談を含めた合理的な解決方法を見つけていきましょう。
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