年末に聴きたいジャズ(JAZZ)ベスト3を紹介!
年末に聴きたいジャズ
日本の音楽の世界では、年末の定番と言えば、ポップスでは紅白歌合戦やレコード大賞があり、テレビで賑やかに行われます。そして、クラシックの世界では、何と言ってもベートーベン「第九」です。
この曲はこの時期、誰もが一度は耳にするはず。オーケストラと百人にもおよぶコーラスによる「歓喜の歌」には、一年の垢を全て浄化してくれるような効果を感じます。一万人の第九というイベントなども毎年のように行われ、もはや日本において年末の曲と言えばベートーベン「第九」だと言えるほど定着しています。
一方、年中行事には無縁な印象のジャズにも、実は年末に相応しい曲が沢山あります。今回は、年末に聴きたいジャズ(JAZZ)をベスト3の第三位からご紹介いたします。
第三位 ハーレムのビッグバンド王 デューク・エリントン「極東組曲」より「アド・リブ・オン・ニッポン」
Far East Suite
その二年前の1967年に出た「極東組曲」は、エリントン楽団がファーイーストと呼ばれる日本を含めたアジアに楽旅に出たときの思い出のアルバム。デュークが現地で見聞きした文化や音楽をそのままではなく、彼の中で咀嚼して、あくまでデューク・エリントンが感じたアジアを描いた作品です。
「アド・リブ・オン・ニッポン」はその中でも一番最後におかれ、演奏時間も十一分を超える大作です。デュークの並々ならぬ日本への思いを音世界に表現した芸術性の高い作品となっています。
デュークの感じた日本は、ありがちなドラが鳴り響くような中国文化と一緒になってしまったようなものでは決してありません。ここに描かれているのは、まさに日本の心ともいうべき姿。
デュークの文化大使としての洞察力は、さすがという感じがします。幽玄や凛としたジャポニズムといったような言葉がまさにハマる、墨絵のような濃淡の世界が繰り広げられます。
ここでの主役は、デュークその人のピアノとジミー・ハミルトンによるクラリネット。デュークのピアノは、あたかも二面の琴のように聴こえ、ジミーのクラリネットはまるで尺八のように響きます。アメリカ人による和の音楽が、強烈なスウィング感を伴って、見事にアメリカの音楽、ジャズとなっていることに驚かされます。
日本にいても、日本の文化に触れる機会が、ほとんど無くなってしまったかのような昨今。アメリカ人の手になるビッグバンドジャズによって、年末年始くらい日本の心を思うのも、オツなものかもしれません。
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第二位 NO.1ヴォーカリーズコーラス マンハッタン・トランスファー「マントラ」より「バードランド」
Man-Tora: Live in Tokyo
メロディを、そのままではなく少しひねって演奏する事が多いウェザー・リポートが創る曲は、いわゆる通好みなものが多いのですが、この「バードランド」は例外的に、ストレートにメロディを繰り返します。そこが受け、大ヒットにつながったといえます。
もちろん、オリジナルの演奏は、インストルメンタル(器楽曲)で、当然ボーカルは入っていません。ここでご紹介する4人組のコーラスグループ、マンハッタン・トランスファーによる演奏は、なんとそのウェザー・リポートの演奏に歌詞をつけて歌ってしまったというもの。
作曲者でもあるキーボードプレイヤーのジョー・ザヴィヌルのキーボードプレイや、サックスのウェイン・ショーターのソロまで、歌詞をつけて歌っています。この超絶技巧ともいうべきヴォーカルは、「ヴァーカリーズ」というジャズ特有のジャンルになります。
「ヴォーカリーズ」の歴史は古く、1940年ごろからエディ・ジェファーソンというヴォーカルにより広まったとされています。器楽曲のアドリブ部分にまで歌詞をつけて歌うというスタイルは、それをこなせる実力を持つヴォーカリストの中で広まり、キング・プレジャーや女性のアニー・ロスなどによって一般化したといえます。
最初は、ソロ(一人)で歌われたヴォーカリーズですが、そのアニー・ロスが入った、ランバート、ヘンドリックス&ロスの登場により、コーラスの世界にまで広がりました。
マンハッタン・トランスファーは、その先輩格に当たる三人組ランバート、ヘンドリックス&ロスの演奏を四人でさらにバージョンアップしたものといってよいでしょう。
一人増えている分、コーラスの厚みもくわわり、その上彼らの盛んなエンターテイメント性により、楽しさも増しています。「バードランド」はマンハッタン・トランスファーにとってもあたり曲となり、彼らの名や実力を世界に知らしめたものとして、記憶されました。
「バードランド」という曲は、ニューヨークに1950年代にあったジャズのライブハウスのバードランドに由来しており、そのライブハウスの名前は、当時のジャズ界の第一人者、アルトサックスのチャーリー・パーカーのあだ名、バードからとられています。
まさにバードのために作られたというライブハウスのバードランドですが、色々問題が多かったご当人のバードが、結局出入り禁止になったという、笑えないエピソードもあります。
マンハッタン・トランスファーのコーラスは、ウェザー・リポートの原曲がまとうミステリアスな雰囲気よりも、むしろ歌としての楽しさのほうが強く、最後に同じメロディを繰り返すくだりの盛り上がりは抜群。
その楽しさがライブ録音により増したこの演奏は、まさに一年の最後を飾る定番曲にふさわしいといえます。モダンジャズの創始者バード、チャーリー・パーカーの軌跡を、一年の最後に称える意味でも、「バードランド」は毎年年末年始に聴きたいものです。
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第一位 スウィングの王様 ベニー・グッドマン 「ライブ・アット・カーネギー・ホール」より「シング・シング・シング」
ライヴ・アット・カーネギー・ホール・コンサート1938(完全版)
ここには、当時のジャズ界最高峰のデューク・エリントンとカウント・ベイシー楽団からの強力な助っ人も馳せ参じて、当時のスウィングオールスターズともいうべき顔ぶれによる歴史的な演奏が繰り広げられています。その歴史的なコンサートのフィナーレを飾ったのがこの曲「シング・シング・シング」です。
この曲は、ベニー・グッドマンは勿論、当時のスウィングジャズを代表する曲といってよいもの。言わば、ジャズにおけるベートーベンの第九に当たる曲と言ってよいでしょう。
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このベニー一党による1938年のライブ盤は、クラシックでいえば、いまだに第九の決定版と言われる、1951年のバイロイト祝祭管弦楽団を指揮したヴィルヘルム・フルトヴェングラーの有名な演奏に相当するものです。
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」
最後の最後のフルトヴェングラーのプレスト(急速に)のあまりに急速な棒にはさすがにオーケストラはついていけず、終わりの部分で金管が飛び出してしまうという有名な演奏です。しかし、そんなことは一切気にならないくらいの昂揚感に圧倒される演奏です。
ベニー・グッドマンによる「シング・シング・シング」もこの荘厳な第九にまけずに、緩急自在に盛り上がります。ベニー・グッドマンによるクラリネットソロや、ピアノのジェス・ステイシーのソロも素晴らしいですが、やはり特筆すべきはドラムのジーン・クルーパです。
この演奏が、ジーン・クルーパをスウィングドラムの第一人者に押し上げました。ジーンのドラムは、最後に向かうにつれどんどん盛り上がり、エンディングも一斉に終わり、バッチリ決まっています。音楽により一年を振り返り、カタルシスを体験するには打ってつけの、年末にふさわしい演奏といえます。
今年一年は、あなたにとってどのような年でしたか。来年は、更なる飛躍の年になりますように。また来年お会いしましょう。
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