出会いがあれば、必ず別れがあります。二月、三月の季節は、送別会や卒業式など、特に別れの多いシーズンです。センチメンタルになってしまいがちですが、これから出会いの春に向けて誰もが通る儀式のようなもの。

素敵なジャズでも聴いて、心を切り替えていきたいものです。そこで今回は、送別会、卒業式などのシーズン、BGMにピッタリのジャズをご紹介いたします。

アルトサックス奏者 ジョー・マイニ「ザ・スモール・グループ・レコーディングス」より「オールド・ラング・サイン」 

The Small Group Recordings

The Small Group Recordings


この「オールド・ラング・サイン」は、日本人ならおそらくは誰もが知っている曲です。「蛍の光」と言えばお分かり頂けるでしょうか。

最近ではそうでもないようですが小学校の卒業式には必ず歌う定番でしたし、現在でもよく商店の営業時間終了のテーマ等にも使われています。

この万人に親しまれている曲は、スペルが「Auld Lang Syne」と書きます。これはスコットランド語で、懐かしい昔といった意味です。

もともとは日本の曲ではなく古くからスコットランドに伝わっていた歌が、日本はもちろん世界中に広がった、スタンダードソングの先駆けのような曲です。

ここでは、アルトサックス奏者のジョー・マイニがジャズとして取り上げているのを聴いてみましょう。出だしはルバート(自由なテンポで演奏すること)で、ジョーはどこか物悲しいメロディをスウィング時代のようなオールドスタイルで切々と歌い上げます。

2コーラス目に入って、一転インテンポでスウィンギーな演奏に変わり驚かされます。ところがどんなに陽気に演奏しても、どうしてもお別れのイメージが強いこの曲。偶然かどうかはわかりませんが、この沢山曲の入った四枚組のCDにおいても四枚目の一番最後にひっそりと置かれています。

ジャケットでおどけた表情のジョー。実際冗談が大好きでひょうきんな性格だったそうです。ジョーはその性格ゆえか、弟の目の前でジョークで拳銃を振り回し(ロシアンルーレットだったという噂もあります)、自らの手によって34歳の若さで命を失ってしまいました。

何とも悲しい今生の別れになったジョーの音色だからこそ、余計にはかなく感じる演奏です。

100年以上の歴史があるジャズの世界においては、ジョーに限らず多くのミュージシャンが鬼籍に入っています。それでも、残された演奏を聴いて、勇気をもらうことはできます。

人生においては、これからも多くの別れを経験するでしょう。それでもそれを糧として未来へ歩んでいけるという励ましや喜びを感じることができる名演の一つです。

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キーボード奏者 ハービー・ハンコック「ザ・ニュー・スタンダード」より「スカボロー・フェア」

ザ・ニュー・スタンダード

ザ・ニュー・スタンダード


このCDは、有名キーボード奏者ハービー・ハンコックが、これからの次世代スタンダードソングを提唱したアルバムです。ビートルズ、シャーデー、ニルヴァーナ、プリンスなどロックやポップスから選ばれた曲の中で、この曲「スカボロー・フェア」は、実は古い曲です。

ヒットしたきっかけは、サイモン&ガーファンクルのバージョンで、映画「卒業」で有名になりました。元々はイングランドに古くから伝わる民謡がもとになっています。

映画「卒業」では、両親の引いたレールの上で優等生のまま大学を卒業した、若き日のダスティン・ホフマン扮するベンが、自分を縛り付ける両親や周りの環境に悩みます。

居心地が良いけれど淀んだ世界からの卒業。それも花嫁略奪という思い切った方法でブレイクスルーするという痛快でありながら、ちょっと行く末に不安を感じさせる映画でした。その青春期特有の不安定な感情とサイモン&ガーファンクルの歌は、見事にシンクロしていました。

そのイメージが強い名曲を、ハービー・ハンコックは、テナーサックス奏者のマイケル・ブレッカーをフィーチャーし、よりアクティブに演奏しています。演奏は、印象的な美しいメロディのハービーのアコースティックピアノのイントロから始まります。そして、有名なテーマはマイケルによって吹かれます。

マイケル・ブレッカーというと、抜群のテクニックばかりが取沙汰されますが、この「スカボロー・フェア」では、マイケルのどこか物悲しいテナーの音色が強調され、曲調にピッタリ寄り添っています。

メロディ楽器の持つ音色の重要性を感じずにはいられません。マイケルのサックスは、アドリブに入るといつもの饒舌さで、沢山の音を並べますが、音色に着目して聴いていくと、吹けば吹くほどセンチメンタルな印象を持っていってしまうのが不思議です。

卒業式などで、嬉しいはずなのに泣いてしまう、あの感じに近いのかもしれません。それとも、卒業式でよく見る風景、とりあえず泣いてみたという若干の計算? とでも言いましょうか、それと同じような音色への心遣いだったとしたら、マイケル・ブレッカーは並々ならぬ稀代のテクニシャンと言えるのかもしれません。

そして、おそらくは、その音色はマイケルの計算なのでしょう。あるインタビューで、マイケルは「あなたのようなサックス奏者になるためにアドヴァイスをください」という質問に対して「スタン・ゲッツを聴くことが重要だ」と答えています。

ジョン・コルトレーン直系と思われるマイケルにして、その正反対なスタン・ゲッツの名が出たところに秘密があります。なぜならば、スタン・ゲッツほど、場面場面で音色を変えて歌いこむ名人はいないからです。

この「スカボロ・フェアー」は、マイケルがスタンを学んだ結果、たどり着いた音色の境地なのかもしれません。

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ピアノ奏者 エディ・ヒギンズ「ディア・オールド・ストックホルム」より「ウィ・ウィル・ビー・トゥゲザー・アゲイン(また会う日まで)」

懐かしのストックホルム

懐かしのストックホルム


エディ・ヒギンズは、特に目立った経歴も奏法も持たない、いわゆる趣味の良さが持ち味のピアニストです。曲に対するアプローチも、決して無理せず自身の一番得意なスタイルやテンポでさらりと演奏する大人の粋人です。

この全曲ファンからのリクエストで作られたCDにも、そのエディのスタイルが統一されています。誰もが知っているスタンダードソングを、誰もが知っているように、決して慌てず、騒がず、余裕を持って弾ききっています。

この曲「ウィ・ウィル・ビー・トゥゲザー・アゲイン(また会う日まで)」は、別れに至ったとしてもまたいつの日か会える日が来る、と歌われるスタンダードソングです。ここでも、エディはゆっくり目のテンポで、悠々と格調高くピアノを響かせます。

個性が重要なジャズの世界においては、取り立てて特徴がなく思われるエディですが、実は相当なイケメンで、若い頃はプレイボーイで有名だったそうです。その遊び人エディが、ここにきて品の良い老紳士となり、その枯れたピアノの音色でもって、「別れなんてものは、一瞬の悲しみに過ぎないのだよ」とやさしく諭してくれているようです。

別れがあれば、きっとまた新しい素晴らしい出会いがあります。どんなときにも前向きに生きたいものですね。

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