春のシーズンに聞きたいジャズ
ようやく過ごしやすい季節になり、梅やさくらを初めとして、新芽や花が咲き乱れるこの春。ジャズでも春の曲を取り上げている演奏が多くあります。そこで今回と次回、春のシーズンにピッタリなスプリング・ジャズを二回連続でご紹介いたします。ジョン・コルトレーン&ウィルバー・ハーデン「ザ・スターダスト・セッション」より「スプリング・イズ・ヒア」

Stardust Sessions
今回ご紹介する「ザ・スターダスト・セッション」というCDは、ジョンとウィルバーとの1958年7月11日のセッションをひとまとめに聴くことができる徳用盤です。私自身も、昔レコード店でジャケットでの大写しのコルトレーンのインパクトに、引き込まれるように買ってしまった思い出のアルバムです。
一曲目「スプリング・イズ・ヒア」は、春はここにという歌詞から始まるスタンダードソングです。フロント二人の合奏によるテーマがフレッシュな感覚を感じさせます。
この日はスタンダードばかり全部で八曲録音され、ジョンとウィルバーそしてリズムセクションの旺盛なスタミナと想像力を感じます。
もっとも、モダン・ジャズ期には多くの店で深夜のジャムセッションが行われ、ミュージシャンは夜通し演奏し、昼間は録音するといった話が多くあります。そもそもモダン・ジャズの始まり「ビ・バップ」は、そういった連夜のジャムセッションを通して創造されたというのが通説になっています。
つまりは当時のミュージシャンはそれこそ一日中演奏していることも珍しくない状況にあったようです。その中にあってもジョン・コルトレーンは、周りがあきれるほどにサックスを演奏し、練習していたことで有名なミュージシャンです。
この録音当時1958年は、メインストリーマーとして王道をひた走っており、乗りに乗っている時期。ここでも、モダン・ジャズのセオリーの中、新たな方向を見つけようと模索しながらも、難解すぎる方向へは進んでいません。
音楽として聴きやすいバランスの取れた演奏になっているところが、成功の要因と言えます。まさに春の訪れを感じさせる爽快感がある演奏です。
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超有名トランペット奏者クリフォード・ブラウン&ドラム奏者マックス・ローチ「クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ」より「ジョイ・スプリング」

クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ
このクリフォード・ブラウンとのカルテットでも得意のブラシプレイが光ります。バックから激しくもり立てるアート・ブレイキーとは違い、サウンド面で、良い意味で抑えられ、クリフォードを筆頭にソリストの音楽がハッキリ聴こえてくる良さがあります。
その繊細さに答えるのが、当時のメンバーの抜きん出た力量です。特にトランペット奏者のクリフォード・ブラウン。その落ち着いたプレイや音の良さ、フレーズのまとまりなどは、まさに当時のトランペッターとして最高峰と言えます。
この「ジョイ・スプリング」は、まさにその特徴が良く出た、颯爽としたテーマが春を思わせる演奏です。優等生でエリート、その上刺激的というジャズとして申し分のない出来になっています。
クリフォード・ブラウンの音は、のびやかで美しく、ハイノートも楽々ヒットします。さらに泉のように沸き出る、流れるようなフレージングは構成力があり説得力にすぐれています。
まさに、ミスター・トランペットとも言える、ジャズ界の輝けるホープだったクリフォード・ブラウンが、好事魔多しという諺通り、1956年に自動車事故で二十五歳にして早逝してしまいます。
酒場やダンスホールの音楽として誕生したジャズにおいては、切っても切れない関係の酒とドラッグ(薬)。当時のジャズメンのお約束のような、この二つを一切やらず、音楽に真摯で、人当りの良いナイスガイだったクリフォード・ブラウン。
1956年というと、百年以上の歴史においても最高にジャズが熱かった、モダン・ジャズ絶頂期にあたります。その最中にあらゆる可能性に満ちながらも二十五歳で亡くなったクリフォードには、その前年の1955年に同じく自動車事故で二十四歳にして亡くなったハリウッドの大スター「ジェームズ・ディーン」の姿が重なります。
クリフォードの突然の死により、マックス・ローチはもちろん、共演していたテナーサックスのソニー・ロリンズまで、茫然自失とし、一時音楽から離れてしまったという話が残っています。
二人はその後、クリフォードの熱い思いを胸に、それぞれの方法で再起を図ることになります。それほどの、影響力を持ったジャズメン、クリフォード・ブラウンこそは、ジャズ界の「真のヒーロー」そして「良心」として語り継がれている存在と言えます。
次のページでは、美人シンガーと海を越えて成功したミュージシャンをご紹介します!
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