もちろん私なりの栄養管理に対する強い考えがありますが、その個人的な考えをクライアントに押し付けるような事はしていません。しかし、最近は栄養士仲間などから、「母親でもあり栄養士でもある立場で、あなた自身のやり方を他の人に伝えるのもいいんじゃない?」と後押しされるようになってきました。今回は、私自身が実践している栄養管理を紹介したいと思います。あくまでも一個人のやり方なので、全ての人にお勧めする訳ではありませんが、日常的な栄養管理についての考え方として、参考にして頂ければと思います。
いちまさ流・食生活……食育の考え方
食事は奥が深い!
私の食育の目標は、子供達が既製品よりも家庭料理を好み、色々な食材や料理を楽しむことができ、健康・文化面で食が大切だと思ってくれることです。親の判断で、子供の食生活からいわゆる「不健康食」を取り除くこと自体が食育だとは思っていません。子供が自分で「適量」や「バランス」を判断できる土台を作ってあげることが食育だと思っています。
家族全員ができるだけ同じ物を食べる事にもこだわっています。子供だけ、または親だけが健康的な食生活で、別の食事やおやつというのは意味がないというより、ネガティブなだけだと思っています。例えば幼児食だけレシピ本を見て作ったり、親だけ子供がいない時にお菓子を食べるような事をしても、健全な食育につながらないと思います。
もう一つのこだわりは、素材の味が分かるように食育することです。例えば、白身魚を食べた時に、何の魚か分かるようになったり、化学調味料が使われていれば、食べて分かるようになるといいと思っています。化学調味料などを絶対に使わない方がよいなどとは思っていませんが、違いが分かるようにしてあげると、大人になってからも、美味しい物を楽しむ基礎作りができるのではないかと思います。
栄養は大切ですが、それだけが人の健康を決める訳ではないと思います。栄養素の吸収や代謝に関してはまだ分からないことも沢山あります。リラックスや楽しみなどの精神的な部分も、栄養代謝を含んだ健康管理に関与していることを認識するのは大切だと思います。甘いものやこってりした物、味の強い食べ物がおいしいと思うのは人間の本能だと思います。食欲は人間の三大欲求の一つです。適量を楽しむことが大切で、厳しく管理・制限するのは総合的に考えると、健康的ではないと思います。
食材への考え方
食材を買う時にこだわっているのは、できるだけ昔からあった食材を選ぶことです。例えば、ジャムやドレッシングなどを買う時には、原材料の表示が単純明快で、50年前にもあったような食材が使用されているものを無理をしない範囲で選ぶように心がけています。また、ハイテク技術を駆使したような機能性飲料や機能性食品はできるだけ使わないようにしています。もうひとつの自己流こだわりは、同じ製品を買い続けないことです。最近は食品に含まれている物質がよく分からないことも多いので、リスク分散のつもりで、色々な会社によって生産されたものを使っています。家庭菜園では自分で堆肥なども作って悪戦苦闘していますが、スーパーで買う場合は特にオーガニックなどにはこだわっていません。農薬残留などが特に多い事でよく知られている食材に限って、洗ったり皮をむいても対応しにくい場合は、使う回数をぐっと減らしたり、オーガニック・低農薬・無農薬商品を買うことはあります。昔からある食材に悪いものはないと思うので、一部の人が避けているバターや砂糖なども適量使います。
いちまさ流・シンプルバランス食事法
食事のバランスで意識しているのは下記の2点だけです。【1】食事のバランスは、「1/3がたんぱく質の多いもの」、「1/3が糖質の多いもの」、「1/3が糖質の少ない野菜・根菜・キノコ類」というように、3つのグループが同じ量になる程度を目安にしています。あくまでも目安ですので、多少量が違っても構いません。朝食はバタバタしてることが多いので、「野菜・根菜・キノコ類」の代わりに果物を使うこともよくあります。
【2】同じ食材ばかり使わないようにしています。日本の一般的な慣習とは異なりますが、お米でも毎日は食べません。
それぞれのグループに属する食材は以下のようなものがあります。
【たんぱく質の多いもの】
肉、魚、卵、豆腐、黒豆、大豆、枝豆、牛乳・チーズなどの乳製品など。
【糖質が多いもの】
じゃがいも、サツマイモ、パン、トルティーヤ、キンワ、スパゲティ、うどん、そうめん、中華麺、白米、玄米、押麦、オーツ麦、くり、とうもろこし、かぼちゃ、さといもなど。
【野菜・根菜・きのこ類】
人参、ブロッコリー、カリフラワー、ほうれん草、トマト、青梗菜、白菜、キャベツ、レタス、小松菜、オクラ、大根、ニラ、ピーマン、玉ねぎ、なすび、春菊、しいたけ、えのき、しめじ、キクラゲ、こんにゃく、ごぼう、レンコンなど。
日々の食卓では、塩加減はご飯が進まない程度を目安にしています。口休めが必要なおかずは味付けが強すぎると思います。塩を極端に制限しなくてもよいと思いますが、最近インターネットなどで見るレシピに、過剰な調味料が使われているケースを目にすることがあります。塩味などの味覚はどんどん鈍っていくので、子供にやっかいな癖がつかないように調味料の過剰使用はできれば控えたいところです。ただし、行事食などは、塩分や甘みを抑える必要はないと思っています。
おやつ・間食の考え方
日々のおやつや間食には、果物・ドライフルーツ・ヨーグルト・ナッツ類・チーズなどをよく使用しています。特に子供の場合は、おやつ・間食は、食事の補助という役割もあると思います。もちろん、市販のおやつや簡単手作りおやつにすることもあります。特別な菓子を作る場合は、一般的なレシピで作るようにしています。健康を意識する親の感覚で、変に砂糖や脂質を減らしてヘルシーに仕上げないようにしています。特別な日のお菓子や、時間を掛けて作るお菓子は、栄養面よりも、美味しい思い出など、文化的な面でもっと大切なことがあると思っています。
社会の中での食に対する考え方
他の人が作ってくれた食事に対して「○○の料理はまずい」「料理が下手」と言ったり、思い続けるのはよくないと思います。作ってくれる人がいること自体、恵まれていることだと思います。味覚は色々あるからこそ面白いと思います。料理にしても芸術にしても、皆が同じ物を素晴らしく感じたら逆に変だと思います。もし不満を感じるほど味覚が作り手と合わなければ、自分で作ったり、調理をしてくれる人と一緒に工夫して調整すればいいと思います。好みが同一ではないのは自然なことです。また、他人の食生活と比較したり、優劣を付けるのはよくないと思っています。親だけではなく、子供も同じです。「自家製の物ばかり食べるなんて○○○」「既製品の物ばかり食べてるなんて○○○」などはNG。もしも、「私の食卓は豊かだわ」「私の食スタイルは高尚だわ」と思うならば、自分がおかれた環境に感謝するべきだと思います。様々な理由で、豊かな食生活どころではない人はたくさんいるはずです。
最近はメディアなどの普及などもあり、「この食べ物が〇〇に効く」「○○で痩せる」などの発言に、視聴者がいちいち過剰に反応している様子が伺えることもあります。栄養と健康の関係はそんなに単純なものではありません。ダイエットにしても、何らかの食事法にしても、長く続けられないと思う方法はやらない方がいいと思います。変に食事を制限しても、必ずリバウンドしたり、体の代謝が悪くなったり、元の食生活に戻るだけで良い結果が期待できず、ストレスになるばかりだと思います。毎日ずっと続けられる食生活を時間をかけて学んだり、調整していくしかないと思います。
栄養管理や健康管理に近道はありません。食育は決して子供だけのものではなく、大人も一生を通して学ぶ、奥が深い課題だと思います。