「母子カプセル」とは……距離感が近すぎる親子(母子)の問題点
親子の仲が良いののは素晴らしいこと。でも、密着しすぎると「共依存」の状態になっているかもしれません
親子の仲が良いのは素晴らしいことですが、関係が親密すぎると「共依存」(特定の人間関係へのアディクション)の状態になり、親子それぞれの心の成長や心の健康にひずみを作ってしまうことがあります。なかでも、母子の距離感が近すぎて、2人だけの世界に安住している状態を「母子カプセル」と言います。
子どもは赤ちゃん時代、母親との密着関係、つまり母子カプセルを必要としますが、成長と共にカプセルを抜け出し、他人や社会とのかかわりを増やしていきます。さらに、児童期から思春期にかけては教師などの指導者に導かれ、友人と学び合うことで、「親に頼らなくても、社会の中で生きていける」という自立心を築いていきます。
このように、子どもは成長と共に、母子カプセルから外へと自然に巣立っていきます。ところが、親が子どもとの親密な関係に執着していると、子の巣立ちを阻害してしまいます。
<目次>
母子カプセルが生まれる原因…夫婦関係の亀裂や満たされない承認欲求
母子カプセルには夫婦関係の亀裂が影響していることも
母子カプセルに留まるケースには、母親の心が満たされず、不安定である例が多く見られます。その理由はさまざまですが、なかでも多いのが夫婦関係の亀裂です。
夫婦関係が円満であれば、母の愛情はほどよく分散され、子どもだけに集中することはなくなります。すると、子どもは親からほどよく解放され、のびのびと成長することができます。ところが夫婦関係が微妙であると、母は自分の心を満たすために母子カプセルに集中しやすくなります。
また、母親が自分に自信がもてない場合も、同様です。子どもは、幼い頃には「お母さんじゃなきゃダメ」と全身で母親を求めてくれるため、承認欲求が心から満たされます。しかし、他者や社会から認められているという自信がもてない場合、幼子からの承認を忘れられず、母子カプセルに留まりたくなってしまうことがあるのです。
思春期、青年期、成人期の母子カプセルの外し方
思春期に子どもの態度が変わるのは自立欲求の表れ
母子関係がカプセル化していても、小学生くらいまでの間は、大きな問題にはならないことも多いものです。なぜなら、小学生の子どもは「勤勉性」という発達課題に挑戦し、親が求める「いい子」になろうと頑張る年代だからです。
ところが思春期になり、発達課題が「アイデンティティの確立」に移行すると、状況は一変します。「いい子」ではなく「自分らしく生きること」に意識が向くため、親に反抗したり、親の意見を無視したりするようになります。こうして親から距離を置くのは、親子関係から脱皮し、自分の力で生きていくためです。この時期は、母子カプセルを外す絶好のチャンス。親の価値観を押しつけず、子どもの自立心を信じていれば、自然にカプセルは外れていきます。
青年期、成人期に入っても母子カプセル化している場合、子どもの心の成長に問題が表れていることが少なくありません。たとえば、自分一人では進路や人生選択を決められない。卒業や就職まで、あと一歩のところで歩みを止めてしまう。友だちやパートナーを求めず、多くの時間を家の中で過ごしている。母子カプセルに留まる青年、成人には、このようなことがしばしば生じます。
こうした場合、子どもの方がカプセルに強くしがみついているため、親自身がカプセルを出ていくことが必要です。仕事、趣味、地域活動など、どんなことでもよいので家庭の外に活動の場をつくってみましょう。そして、最低限の家事以外、子どもの世話をするのをやめて、何でも自分で考えてやらせることです。
すると、子どもは母子カプセルに留まるメリットを感じなくなり、「そろそろ外の世界に出ていこうかな」という気持ちが生じてきます。
母親が「母子カプセル」を卒業するために
外で楽しむ姿を子どもに見せると、母子カプセルは外れやすくなる
また、「自分がなぜ母子カプセルに執着しているのか」を振り返り、考える時間も必要です。その助けとして、カウンセリングやグループミーティングが役に立ちます。私自身、公民館などで母子関係を考えるセミナーを行ってきました。地域の広報誌などで、こうしたセミナーなどの情報が見つかるかもしれません。
繰り返しますが、母親が家庭の外に自分の世界をもつのは、とても大切なことです。それをいきいきと楽しんでいる姿を子どもに見せると、子どもは「外の世界って楽しいのかな?」と社会に興味を感じるようになります。
まずは、少しでも興味があることから、家庭の外でやってみたかったことにトライしてみましょう。家庭の外での自分の世界が広がると、家は自分や家族を束縛する場ではなくなります。社会で頑張る自分や家族が安心して羽を休める場所、すなわち、とても居心地の良い場所になるでしょう。
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