迷えるマクドナルドに起死回生の戦略はあるのか?
マクドナルドはクーポンの乱発で危機を乗り切ることができるのか?
戦略自体は振り子と同じで、ある方向性が極まれば、それ以上は効果が望めなくなる時期がやってきます。その際には、これまでとは違う方向性にエネルギーを注ぎ、事業を新たな方向に導いていく必要があるのです。
たとえば、かつて長崎ちゃんぽんを全国展開するリンガーハットは450円のちゃんぽんを100円値引きするクーポンを乱発して、外食産業の激しい価格競争を生き残ろうと画策していました。
ところが、クーポンで値引きしても思うように売上が伸びなくなり、大きな赤字を計上して経営危機に直面したのです。
この未曽有の危機を乗り切るために再登板した創業一族の米濱社長は、他の役員や銀行が反対する中、クーポンによる値引きを廃止し、食材に全て国産野菜を使用することによって料理の質を高めて、デフレ経済にも関わらず100円の値上げを断行します。
この逆転の発想は周囲の予想に反して、顧客の支持を得ます。そして、リンガーハットは危機的な状況を脱し、値上げが功を奏して驚異的な利益を計上するなど、V字回復を実現したのです。
このケースからわかるように、顧客は決して安い価格を望んでいるわけではなく、価格に対して価値の高いものを望んでいるということなのです。
その観点に立てば、マクドナルドがやるべきことは立て続けに実施する無料キャンペーンではないことは明白でしょう。
外食産業でいえば、クーポンを廃止し、値上げで成功したリンガーハットだけでなく、全く値引きをしないカレーチェーン『CoCo壱番屋』の快進撃を目の当たりにすれば納得できるはずです。
今、マクドナルドに必要なのは、無料のメッセージのもとに集まる“一元客”ではなく、何度も店舗に足を運んでくれるファン客の存在なのです。
恐らく“無料”というメッセージで顧客を集めても、ファン客には成り得ないでしょう。そのような“無料”に敏感に反応する顧客は価格に対して非常にシビアな感覚を持っていて、通常価格であればリピートする確率は低いといえます。そのようなタイプの顧客は、キャンペーンでいくら無料で商品を提供されても、ロイヤルティを感じることなく、より安い価格を求めて様々なお店を渡り歩いていくのです。
そこでマクドナルドは、無料キャンペーンで短絡的に顧客を集めるのではなく、じっくりと「顧客が何を望んでいるのか?」を明確にして、商品自体の価値を高め、顧客の望むものを提供していく必要があるのです。
それは、たとえば外食のトレンドからいえば、“健康”をキーワードにしたサラダバーのようなサービスかもしれませんし、アメリカで非常に伸びている“プレミアム”をキーワードにしたとてもおいしいハンバーガーかもしれません。
いずれにしろ、定番商品を無料にしてこれまで築いてきた価値を崩すことは、得策とは思えません。それよりも、徹底的に顧客が望む価値を見極め、タイミングよく適切な商品を提供することによって、顧客を虜にし、リピートにつなげていかなければならないのです。
もし、このまま安易に無料キャンペーンを継続し、マクドナルドに対して顧客の望む価値とのギャップが広がり続ければ、一時は安売りで顧客の支持を得るも、環境の変化についていけずに厳しい経営を余儀なくされたダイエーと同じ道を辿る可能性も否定できないのではないでしょうか。