マーケティング/マーケティング事例

迷えるマクドナルドに起死回生の戦略はあるのか?

“デフレの勝ち組”と称されたマクドナルドが迷走しています。ここ9か月は前年割れの売上が続き、2012年12月期の決算では9年振りに前年割れとなることが濃厚となりました。「今、マクドナルドに何が起こっているのか?」現状を分析し、起死回生の戦略について検討していきましょう。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

業績に急ブレーキがかかった“デフレ時代の勝ち組”マクドナルド


「ENJOY!60秒サービス」

マクドナルドが展開した「ENJOY!60秒サービス」は企画の斬新さで話題となった

“デフレの勝ち組”として、厳しい環境の中でも快進撃を続けてきたマクドナルドに暗雲が立ち込めています。

コーヒーの無料キャンペーンや100円マックなどで顧客の裾野を広げ、ビックアメリカなどの新メニューキャンペーンで価格の高いハンバーガーを投入して客単価を上げる“原田マジック”を駆使して、順調に業績を拡大してきたマクドナルドですが、ここ9か月既存店の売上高は前年割れが続き、大きく苦戦しているのです。

結果として、直近の決算は9年振りの減収見込みとなるなど、業績に急ブレーキがかかった格好です。


なぜ、マクドナルドは不振に陥ったのか?
 

あれほど順調に売上を伸ばしていたマクドナルドにいったい何が起こったのでしょうか?

マクドナルドの原田社長は、日経新聞の取材に対して、「顧客の意識に大きな変化があり、もはや100円メニューで価値を感じなくなった」と答えています。

つまり、これまで100円マックで顧客層を広げ、新メニューキャンペーンでリピートを促すという仕掛けが、全く通用しなくなったのです。

実際に昨年の7月に展開した世界のご当地バーガーを販売するキャンペーンは、売上アップの起爆剤になるはずが、思惑が外れ、マクドナルドの不振を際立たせるものになりました。

また他の原因として、長引く不況の影響でサラリーマンの昼食費が年々低下傾向にあることも挙げられるでしょう。

新生銀行の調査によれば、昨年は調査を開始した昭和54年よりも55円低い510円となり、30年前よりも低い水準にあります。特に昼食代を節約するために、自宅からおにぎりや弁当を持参する人も増加傾向にあり、今後も急激な回復は見込めない状況です。

加えて、今やコンビニやスーパーなどで298円程度の低価格でおいしいお弁当なども販売されていて、限られた“胃袋”を奪い合う熾烈な競争が業界を超えて繰り広げられていることも大きく影響しているといえるでしょう。


これまで連戦連勝だった原田社長が繰り出す次の一手とは?
 

マクドナルドの原田社長は、9か月にも及ぶ長引く不振を払拭するために、次々と手を打ってきました。

まずは、2012年10月1日から、全国の店舗でレジカウンター上に置かれていた「メニュー表」を廃止。店頭で注文に迷う顧客をなくし、顧客の回転率アップを図って、同じ時間内に対応できる顧客を増やすことによって、売上アップを目論みます。

また、2013年1月4日から31日までは、「ENJOY!60秒サービス」と称して、注文を受けた全商品を60秒以内で提供できなければハンバーガー類の無料交換券を渡すキャンペーンを展開。このキャンペーンでは、60秒以内で提供できた場合でも、プレミアムローストコーヒーの無料券をもれなく提供するなど、再来店を促して顧客数のアップを図ります。

そして、1月14日の成人の日には、新成人にビックマックを無料で提供するキャンペーンを実施。このキャンペーンでは、今年新成人となる120万人のうち、およそ20%にあたる25万人がマクドナルドの店舗に押し寄せました。

さらに矢継ぎ早に、今度は朝食市場の拡大を目指して朝マックの1品を毎週月曜日に週替わりで無料で提供する「フリーマンデー」キャンペーンを1月21日、28日、2月4日の3週にわたって展開。競争の激しい昼ばかりではなく、無料を武器に朝食需要の掘り起こしを目指していきます。


引き続き無料で裾野拡大を図るマクドナルドの判断は正しいのか?
 

このように、ここ最近のマクドナルドのマーケティング戦略を分析してみると、特徴付けるキーワードは“無料”といえるでしょう。

これまで、無料でプレミアムコーヒーを提供するキャンペーンでうまくいった成功体験に基づき、「ENJOY!60秒サービス」や成人の日のお祝いなど切り口を変えて話題性を高めて、同じような成功につなげていこうという意図が汲み取れます。

ただ、今年に入って立て続けに実施する無料キャンペーンが起死回生の策になるかどうかは甚だ疑問です。

かつて、マクドナルドは1990年代半ば、積極的に値下げを展開すると、爆発的に売上がアップし、やはり“デフレの勝ち組”ともてはやされました。

ところが、最低59円にまで値下げされたハンバーガーに顧客が飽きると、『ハンバーガー=安物』というイメージが定着して顧客離れが進み、マクドナルドはたちまち業績不振に陥ったのです。

その窮地を救うために社長に就任したのが今の原田氏であり、業績不振から脱却するために着手したのが、不採算店の撤退と適正な価格への回帰だったのです。そして、原田社長の狙いは見事成功し、マクドナルドはV字回復を成し遂げまました。

ただここに来て、マクドナルドは再び同じ落とし穴にはまっていることも考えらえます。

今年に入って立て続けに展開する無料キャンペーンは、無料で商品を提供すれば、多くの顧客が来店し、何割かはリピーターとなって、顧客数を押し上げるという目論見だと思われます。

ただ、頻繁に無料キャンペーンを実施すれば、『マクドナルド=無料で商品を提供する店』というイメージが定着し、これまで築いてきたブランドが大きく傷つくことになり、多くの顧客が逆に店舗から足が遠のく可能性も高くなるのです。

次のページではマクドナルドの起死回生の戦略について考えていきます。次ページへお進み下さい!
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