マンション物件選びのポイント/マンションの構造・耐震性

地震に強いマンション(6)壁の配置バランス

「地震に強いマンション」にはいくつか条件があります。今回はその中の一つ「壁の配置バランス」に注目します。マンションの壁には「耐力壁」と「非耐力壁」という二つの壁があり、そのうちの「耐力壁」の配置バランスをチェックしてみましょう。

井上 恵子

執筆者:井上 恵子

住まいの性能・安全ガイド

壁の種類

RC造マンションの多くが耐力壁付きラーメン構造を採用している。

RC造マンションの多くが耐力壁付きラーメン構造を採用している。

マンションの壁には、耐力壁(たいりょくへき/たいりょくかべ)と非耐力壁(ひたいりょくへき/ひたいりょくかべ)があり、構造上果たす役目が異なります。

「耐力壁」とは風や地震などの横揺れに抵抗する力を持つ壁のことで「構造上主要な部分」となります。一方「非耐力壁」は、構造上はなくてもよい壁で「雑壁」とも呼ばれます。その二つの壁はパッと見た目は全く同じで、一つの建物内に混在しています。この「耐力壁」が建物内でどのように配置されているかが耐震性と大きく関わってきます。

 

耐力壁付きラーメン構造

ここでマンションの構造についておさらいしておきましょう。「知っておきたいマンション構造の基礎知識」で述べたように、マンションの構造には柱・梁のフレームからなる「ラーメン構造」、壁だけで建物を支える「壁式構造」があります。

実はこのほかに「耐力壁付きラーメン構造」という構造形式があります。基本は柱・梁からなるラーメン構造なのですが、耐震性が足りない場合に部分的に耐力壁を併用する形式です。マンションではよく見かける構造形式です。

 

マンションの耐力壁はどこに入っている?

それでは耐力壁付きラーメン構造で建てられたマンションにおける「耐力壁」と「非耐力壁」の見分け方を簡単にお伝えします。マンションでは基本的に上下の列で同じ間取りが採用されることが多いのですが、住戸と住戸の境にある壁(=界壁(かいへき))は、たいてい耐震性を強化するための耐力壁になっています(【図1】参照)。
【図1】RC造マンションにおける耐力壁と非耐力壁の配置概念図(クリックで拡大)。

【図1】RC造マンションにおける耐力壁と非耐力壁の配置概念図(クリックで拡大)。


界壁部分に耐力壁を設けることで上下の列で同じ位置に耐力壁を設けることができます。また異なる住戸間の壁であるため、この部分に開口部を設ける必要がほとんどなく、耐力壁としての役割を果たしやすい位置となります。

 

非耐力壁(雑壁)の役割

それに対し、バルコニー側や外廊下側などにある壁は非耐力壁、すなわち雑壁が多くなります(【図1】参照)。バルコニー側、外廊下側は窓や玄関といった開口部があり「耐力壁」を設置しにくい部分です。しかしこの雑壁は、地震時にこの部分が先に壊れることで大切な柱や梁の損壊を防ぐという構造上の大切な役目も持っています。

阪神淡路大震災や東日本大震災ではマンションで大きく×型の亀裂が入った雑壁を見かけますが、ある意味では正しく作用してこのように破壊されたと言えます。しかし実際には、雑壁が破壊されると窓やドアが開かなくなって脱出できなくなったり、雨水が侵入して住めなくなったりと大きな問題が発生します。

 

耐力壁の配置バランスとは

耐力壁付きラーメン構造のマンションではこの「耐力壁の配置バランス」がとても重要になってきます。平面的に、耐力壁がバランスよく配置されていることが大切です。

住居階では界壁部分を利用することで一定の間隔でバランスよく配置された耐力壁も、例えば1、2階が店舗形式のマンションでは、その店舗部分で耐力壁がなくなってしまったり、道路に面した特定の一方面だけ耐力壁を設けず、バックヤード側のみに耐力壁が集中してしまっているなど、アンバランスに配置されたケースもあります(【図2】参照)。
【図2】耐力壁がアンバランスに配置された例。道路側がショーケースなどで壁がなく、バックヤード側に壁が集中している(クリックで拡大)

【図2】耐力壁がアンバランスに配置された例。道路側がショーウインドウなどで壁がなく、バックヤード側に壁が集中している(クリックで拡大)


そのように耐力壁の配置バランスの悪い建物は、地震の横揺れを受けた時に壁の少ない部分が大きく振られ、破壊に至ることがあります。大地震の際に1、2階が傾きながら押しつぶされて倒壊・崩壊してしまった例が報告されています。

 

バランスのよい配置とは

それではバランスのよい耐力壁の配置例を挙げてみましょう。基本的に耐力壁は四周にまんべんなく、四隅にも配置されると横からの力に対し建物が変形しにくくなります。建物内部に関してもタテヨコのバランスよく配置されていることが望ましいと言えます。【図2】のように壁の配置が偏っていると、建物にはねじれるような力が発生し、壁の少ないところで大きく振られ、変形が進みます。

【関連記事】
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