ピロティ形式とはなにか
ピロティ形式とは、2階以上の建物で主に1階部分が独立柱のみで耐力壁がなく、外部となっている建築様式、またはその空間のある建物の形式をいいます。敷地面積に余裕のないマンションでは、1階部分をピロティにしてそこを駐車場や敷地内通路として利用することがあります。ピロティの語源はフランス語で、ル・コルビュジエの代表作「サヴォワ邸」もピロティ形式を採用しています。サヴォワ邸は1930年前後にかけて建築され、パリ郊外のポワシーという街に今も現存しています。フランスは地震があまりない国なので今まで被害にも遭わずに済んだのでしょう。
日本では同じくル・コルビュジエが設計し世界文化遺産に登録されている東京上野の国立西洋美術館もピロティ形式が採用されています。
ピロティ形式のマンションは新耐震基準でも大きな被害
このピロティ形式を採用したマンションが1995年の阪神淡路大震災 及び 2016年の熊本地震でも被害が多かったことが報告されています。それが1981年以前に建てられた旧耐震の建物であるならまだしも、大地震にも耐えうるはずの「新耐震基準」で建てられたマンションでも被害が見られたため、ピロティのある建物は地震に弱い、と言われるようになりました。
ピロティ形式は構造上なぜ耐震性が低い?
建物の耐震性と、建物の平面形状や立面形状には関係があるということを「平面形状から見る地震に強いマンションの条件」/「地立面形状から見る地震に強いマンションの条件」で取り上げました。複雑な形よりもシンプルな形の方が、そして偏っている形よりもバランスの取れた形の方が、地震時の揺れに耐える力も大きくなります。それを踏まえて、四角いマッチ箱の下にマッチを四隅に立てて支える形(=ピロティ形式)は「バランスが悪い形」であると言えます。マッチ箱の部分は四角くて強靭な形をしているのに、足元のマッチ棒はそれに比べて心もとなく、横からの力を受けるとぺしゃんとつぶれてしまいます(図1)。
同じ理由で、1階部分が前面ガラス張りの店舗などになっており、耐力壁が少ない建物は、やはり大地震発生時に揺れに耐えられずに足元から崩壊する可能性があります。
ピロティ形式の建物は適切な耐震補強が重要
しかし「ピロティのある建物は全て弱いのか」というとそうではなく、設計段階から充分な対策を取って柱を変形に耐える粘り強い造りにしてあれば安心ですし、既存の建物には、適切な耐震補強をすることで耐震性を持たせることができます。ピロティの耐震補強の方法として、柱の外回りに鉄板や繊維を巻いて柱に粘り強さを持たせる方法、柱とその他の部分の間にスリット(すき間)を設けて地震時の柱の変形に対応できるようにする方法、柱と柱の間に耐力壁や鉄骨ブレースを新設する方法などがあります。
いずれにしても、不安要素がある場合はまずは耐震診断を受けてください。そして必要であれば耐震補強に詳しい設計士と相談し、適切な方法を選択するようにしてください。
いっぽうで津波に対し威力を発揮したピロティ形式
一方、東日本大震災後に宮城県の沿岸部で建物調査をした結果、1階部分が吹き通しになった「ピロティ型」の建物が、津波の被害に遭いながらも建物の流出を免れたケースがあったことが報告されました。「1階部分に外壁がないことで、津波の力を受ける面積が小さくなるためではないか」と分析されました。また鉄筋コンクリート構造の建物の多くが再使用できる状態で残っていることも報告されています(2011年4月24日付産経新聞)。このことから、将来的に津波が想定される沿岸地域ではピロティ形式のマンションが採用される可能性もあるでしょう。鉄筋コンクリート造で中層以上のマンションなら、津波避難ビルとして今後大きな役割を担ってくれると期待できます。
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