吉野家が投入した新戦略メニュー「牛焼肉丼」
吉野家は新たなメニューとして「牛焼肉丼」の提供を開始した
「牛焼肉丼」は、豪州産の肉を使った焼肉に、醤油とリンゴ果汁、国産コンブエキスで作った特製ダレをからめ、お好みによってコチュジャンを加えて食べることができるという、これまでに吉野家にはなかったメニューに仕上がっています。また、具は130グラムと従来の牛丼に比べ40グラム増やすなどボリューム感を高めた食べ応えのある一品です。
吉野家にとってこの「牛焼肉丼」は、こだわりの新メニューだけに価格設定も強気で、通常の牛丼よりも100円高い480円に設定しています。
吉野家は7月に期間限定で投入した「焼味ねぎ塩豚丼」でも成功を収めています。並盛で390円という価格にもかかわらず、発売後わずか20日ほどで300万食にも達するなど好調な売上を記録したのです。
そこで、これまでの牛丼とは一線を画したこの「牛焼肉丼」で、「焼味ねぎ塩豚丼」のヒットで勢いづく業績を更に加速させ、新規顧客を取り込んで顧客数や客単価のアップを狙っていく戦略に打って出たというわけです。
牛丼業界において繰り広げられた激しい価格競争
牛丼業界では近年、すき家、吉野家、松屋といった“牛丼御三家”がマーケットシェアを拡大しようと、激しい価格競争を繰り広げてきました。
業界リーダーのすき家は牛丼の並盛を280円まで値下げ、業界3位の松屋も味噌汁付きで牛めし並盛280円と追随します。吉野家はコストの面から牛丼並盛380円と高めの価格に据え置くも、具材をアレンジした「牛鍋丼」を280円で投入し、他社との価格差を埋めていきます。
加えて牛丼御三家は、牛丼戦争時には頻繁に期間限定で値下げキャンペーンを展開してきました。すき家は牛丼並盛を30円値引きして250円、松屋は40円引きの240円、吉野家は牛丼を110円値引きして270円と、10円単位で他社よりも安い価格で牛丼を販売しようと激しい価格競争を繰り広げてきたのです。
牛丼業界の新盟主「すき家」の誤算とは?
通常、マーケティング戦略においては、業界のリーダーが体力にものを言わせて、下位企業がギブアップするまで価格競争を仕掛けていくことがあります。そして、下位企業の体力が消耗した段階でマーケットシェアを奪取して、業績アップを図っていく戦略です。
そこで、牛丼業界の新盟主であるすき家もセオリー通りに、体力勝負の価格競争を仕掛けてきたのです。ところが、牛丼業界ではこれまで価格競争を積極的に仕掛けてきたすき家の苦戦が鮮明になってきています。既存店の客数の推移を見てみると、牛丼御三家すべてが集客に苦しんでいる中でも、特にすき家は8月に前年同月比88.5%と一際目立った減少を記録しているのがその証拠です。
大きく飲食業界で捉えれば、何も牛丼業界だけでなく、ファミリーレストランもあれば、コンビニエンスストアもあり、他のファーストフードもあるなど、“お腹を満たす”という視点に立てば、それこそ無数のライバルが存在していたのです。
ですから、激しい価格競争の末に、たとえ牛丼業界の中で勝者となったとしても、他の飲食業界で魅力的な商品があれば顧客は迷うことなく簡単に業界の垣根を越えて去ってしまうのです。
むしろ顧客にとっては牛丼業界と他の飲食業界の垣根さえ意識することはないでしょう。
ここにすき家の“誤算”があったのではないでしょうか。
かつて、マクドナルドも同じ過ちを犯しました。“デフレの勝ち組”と称されたマクドナルドは、2000年の初めに「59円バーガー」を武器に事業拡大を図ろうと、積極果敢に攻め続けた時代がありました。当初はインパクトの強さから、目論見通りに売上を伸ばしていきますが、次第に顧客に飽きられ「ハンバーガー=安物」というイメージが定着すると、販売に苦戦することになったのです。
その後、低価格戦略と決別し経営を立て直したマクドナルドの原田社長は「商品を変えずに値段を下げれば、一時的なシェア争いはできるかもしれないが、持続可能な成長市場をつくることはできない」と不毛な価格競争をきっぱりと否定しています。
不毛な価格競争に気付いた牛丼御三家が転換を図る新たなマーケティング戦略とは?・・・次のページへお進み下さい!