マーケティング/マーケティング事例

消耗戦を避けるマクドナルドの賢いマーケティング戦略

デフレ経済下で激しい価格競争の続く外食産業において、日本マクドナルドが今月から新たな取り組みを始めました。果たして、7年の歳月と300億円という巨費を投じて開始した新たな挑戦は成功を収めるのか?日本マクドナルドのマーケティング戦略を分析していきます。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

デフレ経済下で激しい価格競争が続く外食産業 

マークドナルドの新たなクーポン戦略

新たなクーポン戦略を開始した日本マクドナルド。

デフレからなかなか脱却できない日本経済において、外食産業では激しい価格競争が続いています。その象徴ともいえるのが牛丼業界。

今月に入って吉野家が26日から『夏の牛丼祭』と称して、通常価格から110円値引きして牛丼1杯270円で提供するキャンペーンを8月2日まで開催しています。これに対抗するように、今や牛丼業界トップに躍り出たすき家は7月29日から8月10日まで牛丼並盛を250円にまで値下げすることを発表するなど、激しい価格戦争を繰り広げています。

牛丼業界で繰り広げられる価格戦争はマスメディアなどでも注目を浴びて、結果として顧客増につながり顧客単価の下落を補って売上アップを実現しています。しかし、不毛な価格競争は企業の経営体力をじわじわと奪っていることも確かでしょう。

このようなデフレ経済下の激しい価格競争に、新たな試みで業績向上を果たそうと果敢にチャレンジする企業があります。その企業とはファーストフード業界の雄、日本マクドナルド。

マクドナルドは、かつてデフレ化が進む日本経済において平日半額キャンペーンと銘打って通常価格が130円のハンバーガーを65円に設定。昼食費を節約したいサラリーマンなどを中心に客足が急増し、「デフレ時代の勝ち組」として業績を伸ばした実績もあります。

ところが、極端な低価格戦略は「ハンバーガ=安価な食べ物」というイメージにつながり、それまでに築いてきたブランドが大きく失墜。加えて、一時期1ドル=140円水準まで進んだ円安による原材料費の高騰などで日本マクドナルドは赤字に転落して窮地に立たされることになります。この危機を脱するために、キャンペーン終了後に通常価格に戻していたハンバーガーを今度は59円まで値下げして起死回生を狙いますが、度重なる価格変更に顧客の信頼を失って、思うように客足が戻ることはありませんでした。

これ以降、マクドナルドは不毛な価格競争とは一線を画す価格戦略を模索していくことになります。

結果として今月中旬に発表されたのが『一人ひとりに異なる値引きを提供する新型クーポン』であり、マクドナルドは同社の携帯電話サイトに登録し、なおかつ支払いの際に「おサイフケータイ」を利用するおよそ1000万人の会員に対して、一人ひとりの購買履歴に応じたクーポン券を配信することを開始したのです。
 

マクドナルドが発行する『新型クーポン』とは?

マクドナルドが新たに開始した『新型クーポン』。一見するとこれまで同様のクーポン戦略と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、一人ひとりに異なったクーポンを配信するところが重要なポイントになります。

従来のクーポンは、マクドナルドのホームページや携帯アプリから自分の食べたいメニューを選択して店頭で提示するものでした。新型クーポンでは顧客の購買履歴に応じて適切なクーポンを配信して来店を促進していきます。

たとえば、頻繁に来店する顧客に対して、購買履歴から定番メニューしか注文していないことが判明すれば、新製品の大幅値引きキャンペーンクーポンを配信してメニューの注文幅を増やしたり、月に1回程度の来店客に対してはコーヒー無料のクーポンを配信して来店頻度を増やしたりと、個々の顧客の取引実績に応じて適切な提案をしていくクーポン戦略なのです。

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