ウイスキーのチカラ
1961年トリス広告
就職だけが人生か、なんて口にできる状況ではない。仕事に就かなければ食ってはいけないのだから。これは国の責任でもあるが、我々大人たちの責任でもある。何も活性化できなくて申し訳ない。
若者ために何か役に立とうしても、わたし自身明日をも知れぬフリーの身であり、人を雇うだけの甲斐性もない人間である。情けない。
仕方ないからウイスキーのチカラを借りてしまうしかない。
日本を元気にするウイスキーがある。トリスだ。戦争に負けた翌年の1946年に誕生した、庶民派ウイスキーである。敗戦の困窮時、悪酒がはびこっていた時期に、一般市民が入手しやすい価格のウイスキーとして開発された。このトリスが、そしてトリスバーが人々の心にあかりを灯したことは周知の事実だ。
経済成長とともにトリスバーは興隆し、トリハイ(トリスのハイボール)を飲んで高揚した心を鎮め、また「明日も頑張るぞ」と気持ちを高めもした。
これは広告にも表現されていて、同じ1961年に「人間らしくやりたいナ トリスを飲んで人間らしくやりたいナ」と「トリスを飲んでハワイへ行こう!」の両極のようなコピーが世に出ている。それぞれサントリー(当時寿屋)宣伝部時代の開高健と山口瞳のコピーである。まだ日本は貧しくはあったが、次第に物質的な豊かさを求めようとしていく中で生まれたものだ。
いまから眺めると、当時、トリスはいつも日本人の心の壷の渇きを癒し、潤いを与えていたといえよう。
日本人なんだから、トリス
1981年トリスCM「雨と犬」篇
思い出された方もいらっしゃるはずだが、「雨と犬」はトリスの広告だったのである。
トリス<エクストラ>/700ml/40%/¥1,080
そして、就職に苦しむ学生諸君に、「何もしてあげられないけど、愚痴ならばいくらでも聞いてあげるよ」とトリスとソーダをグラスに注ぐ、そんな日本であって欲しいと願ってしまうのだ。愚痴は格好悪くないよ。人間なんだからナ。たまには心の壷のオリを吐き出し、心の壷を潤そう。
人と人、世代を超えた交流が希薄になりつつある。大人がスーッと学生に話しかけ、トリスを酌み交わす、そんな日本であって欲しい。おじさんは手助けできる甲斐性はないが、トリスぐらいはごちそうできる。