薬膳の語源のひとつに、“病気になった子どもに、母親が心を込めて薬膳を作った” という宋の時代の『後漢書』列女伝の記述がある |
■薬膳のルール
薬膳○○と書いてあったり、生薬を使っていたり、クコの実が散らしてあるものが薬膳になるとは限りません。薬膳にはある決まりごとがあり、このルールに則ったものでないと普通の料理と変わらなくなってしまうのです。
薬膳の定義としては、まず中医学の理論に基づいたものでなければなりません。ここでいう中医学の理論とは、整体観念(せいたいかんねん)と弁証論治(べんしょうろうち)の2つの大きな柱があり、わかりやすくいうと、季節やココロとのバランスを取りながら(=整体観念)、体質や体調によって食材や調理法を考える=(弁証論治)ことです。
ちなみに、漢方薬や鍼灸などでは「弁証論治」といいますが、食の提案をする薬膳では「弁証施膳」(べんしょうせぜん)と呼んだりします。つまり、ベースの考え方は漢方も同じで、対処法がクスリになるか、食材になるかの違いなのですね。
また、医食同源という言葉があるように、クスリと食物はともに天然物で、同じような特性を持ち、治療効果があるなど互いに似たような意味合いがありますが、薬膳を用いるうえで忘れてはならないことがあります。それが“毎日続けられる、おいしい食事”であること。
いくら薬効があっても、まずいものだと続きませんよね。食べやすいように加熱したり、味を整えておいしく味わうことがとても重要なのです。
■薬膳のルーツ
2000年以上も前に書かれた薬典の『神農本草経』で、食べものとクスリはもともと同じであるという「薬食同源」という言葉が記載されているように、中国では、古くから食事を通じて健康を維持したり、治療に役立ててきました。
「薬膳」という言葉が生まれる前までは、食べもので病気の予防をしたり、健康なカラダを維持することを「食養」、食で病気の回復を早めたり、疾病治療の補佐に役立てる「食療」とし、「薬膳」の名が知れわたってきたのは1980年代になってからのことです。
この時代に中国で「薬膳レストラン」がオープンしたり、『中国薬膳学』という薬膳本が発行され、最近では世界各国で薬物のエビデンスが解明されはじめています。日本でも偏った食生活で起こる生活習慣病や、アトピーなどのアレルギー性疾患などにも薬膳の利点が取り入れられつつありますが、今後、科学的な根拠をもつ現代栄養学との連立や調和が期待されるとともに、一般にも深く生活に根付いて……いければガイドの私としても本望です。
なお、薬膳や漢方薬には、食材の性能を「四性」(しせい)や「五味」(ごみ)でしめす独特のものさしがあります。次回は特性をふまえた薬膳のポイントをご紹介しましょう!