ストレス/家庭・育児・嫁姑・義理づきあいのストレス

母親はなぜ娘に依存するのか…母娘関係に潜む危機

【公認心理士が解説】ゆがんだ親子関係というと母と息子間の依存関係を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、よりゆがみやすく、依存的になりやすいのは実は母と娘の関係です。母親が自分の娘に依存する理由と親子関係のあり方について考えます。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

母親は自分の娘に何を望んでいる?

母が娘に依存する理由 母と娘の親子関係に潜む危機

母親は自分の娘に何を望んでいる?

突然ですが、将来子どもがほしいと思う女性に質問します。「1人しか子どもをつくらないとしたら、男の子と女の子のどっちがいい?」と聞かれたとき、あなたはどう答えますか?

かつては、子どもに土地や家、家業を継いでほしいと思う人が多かったため、圧倒的に「まずは男の子」と答える人が多かったでしょう。しかし都市型のライフスタイルと核家族化の進む現代では、継ぐべき家や家業をもたない家庭が多くなり、「どうしても男の子」と望む声は以前ほどは多くないと思います。

ところで、上の質問に「女の子」と答えた場合、その理由は何でしょう?もちろん、人によってさまざまでしょうが、こんな理由が頭に浮かんでいないでしょうか?

  1. 女の子なら、いつまでも母親のそばにいてくれるから
  2. 女の子はいずれ成長したら、母親と親友のような関係になれるから
  3. 女の子なら、将来親の老後をしっかり世話してくれるから

1~3のような思いは母親なら誰でも多少は感じたことのあるものなのかもしれません。しかし、これらの思いが非常に強いと感じた人は、自分が娘に感じている愛情が依存的なものでないかどうか、よく考えてみる必要がありそうです。

息子だって将来、老後の親の世話をしっかりみる人もいれば、親を思いやってまめにコンタクトをとる人もいます。しかし、現実には「娘なら息子より親のことを思ってくれる」と期待する傾向が強いのではないかと思います。

もちろん、多少、子どもに依存的な愛情を感じていたからといってそれが一生続くとはかぎらず、思春期を経て子ども自身が自立した生き方を望むようになれば、親も接し方をシフトしていくケースのほうが多いと思います。

しかし、たとえば夫婦関係に不満がある人のなかには、夫からの愛情に不足を感じている分、子どもとの強い精神的なきずなを求め、寂しさを埋め合わせたいという気持ちが強くなるでしょうし、また、子どものために自分の人生を犠牲にしたという思いの強い人のなかには、子どもとの生活のなかになんとしても自分の生きがいを見出したいと思う人も多いのではないかと思います。

こうした思いが強すぎて、子どもとの密着した関係を求めすぎてしまうと、子どもがいずれ親を負担に感じてしまったり、逆に子どもも親に依存し、自立心が育たなくなることもあるでしょう。

では、どうして母親は息子より娘のほうに精神的な一体感を求めがちなのでしょうか。

 

母の娘への依存…息子より同性の娘に期待すること

母が娘に依存する理由 母と娘の親子関係に潜む危機

母の娘への依存…異性である息子より同性の娘のほうがわかってくれる

母と娘の関係の危機については、先日イラクの人質事件で解放された今井さん、高遠さん、郡山さんの診察にも当たられた精神科医の斉藤学氏が、著書『「家族」という名の孤独』のなかでもふれています。このなかで、私もなるほどと思った文章がありますので、引用してみましょう。

母と息子となると、母はさすがに息子の男性性を感じて、たじろぐところがある。
-中略-娘、とくにひとり娘や長女となると、母親はまるで自分の体の延長のように娘を感じてしまうようだ。

自分の喜びは娘の喜び、自分の嘆きは娘の嘆きと思うから、夫への愚痴などがあれば、思う存分たれ流す。娘がそれを聞いて、どのように感じるかに思いがいたらない。それほどの一体感の中に、入り込みがちなのである。

このように、娘と精神的な一体感を求める母親のなかには、その思いを「子どもへの無償の愛」と勘違いしている人も多いでしょう。なかには、どれだけ自分を犠牲にして愛をそそいできたかということをとうとうと語って聞かせる親もいますが、こうした親こそ、子どもを“愛情”の名のもとに拘束したがるのではないかと思います。

もちろん、こうした関係は母-息子間でも起こりうるでしょう。しかし斉藤氏が指摘するように、息子は異性であるために心理的に一体になりきれない部分が生じてしまいます。一方、母と娘の関係の場合は同性であることから「娘なら、自分の気持ちと同じように感じてくれるはず」と過剰に期待してしまいやすく、子どもの気持ちを聞かずに自分の趣味や考え方を押し付けてみたり、成長するにしたがって夫婦間のいざこざでも姑の他人の悪口でも何でも話し、同じ気持ちを共有して癒されたいと思いがちのではないかと思います。

たしかに乳幼児期の頃は、子どもの側から母親への一体感を求めるため、その頃の充足感をずっとずっと持ちつづけたいと思うこともあるでしょう。しかし、子どもは誰しも自分の世界を持ち、精神的に自立していきます。したがって、親が子どもの考えや成長を無視して、依存的な愛情で拘束しつづけようとしたり、精神的な一体感をいつまでも持ちつづけようとするのはやはり一方的なエゴであるといわざるをえないでしょう。

親の役目は、子どもが自分自身を肯定し、また他人や社会も受け入れられるような愛情を与えてあげること。自立心の妨げにならないように注意しながら、人間として身につけていくべき基本的な知識を教えていくこと。また、可能なかぎり自由に人生の選択ができるような環境を整えて、自立を支えてあげることなのではないかと思います。

母と娘であっても母と息子であっても、親子という関係は生涯変わりません。いくつになっても、子どもは親のカウンセラーでもなければ、友人、親がわりにもなれないのです。家庭内のストレスを増幅させないためにも、そのことを忘れてはならないのではないかと思います。

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