DSでブルーオーシャンを切り開いた任天堂
2005年の発売以降、携帯ゲーム機ニンテンドーDSはこれまでゲーム機を利用しなかった層を開拓しながら爆発的なヒットを記録してきました。12月4日に発表された「2006年ヒット商品番付」でも堂々の東の横綱に選ばれるなど、今年一番のヒット商品として輝かしい記録を打ち立ててきました。DSの販売台数はゲーム機史上最速の発売後20ヶ月で1000万台を突破し、発売から2年以上経過した現在でも店頭に並ぶことなく、ほぼ予約でしか買えないという異常な状態が続いています。このニンテンドーDSのヒットの要因を分析してみると、これまでゲーム業界の常識とされてきた競争戦略から視点をずらしたところにあります。これまでのゲーム業界では、映像処理能力や高度なテクニックを要するゲームソフトなど、技術の進歩を主要な戦略目標として競合他社と競争してきました。ところが、このような高度な技術開発はコストがかかる上に、歓迎するのはいわゆる「ゲームマニア」に属する顧客層のみ。大半の消費者にとって最新鋭の技術はオーバースペックであり、それゆえに敬遠する人達がいたことも事実ではないでしょうか。
そこで任天堂はこれまでゲーム機に親しんでこなかったブルーオーシャンと呼ばれる非顧客層を開拓するために、誰でも気軽に楽しめるというゲーム本来の特徴を活かしたゲーム機開発を行ったのがDSだったというわけです。
特に、シンプルに楽しめて脳年齢を測ることのできるゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」は大ヒットし、これまでゲーム機に親しんでこなかった中高年の顧客層を開拓する牽引役を務めました。
競争の無い市場を開拓するブルーオーシャン戦略とは?
ブルーオーシャン戦略とは、世界的に著名なビジネススクールINSEADのキム教授とモボルニュ教授が『ハーバードビジネスレビュー』に発表した最新の経営戦略のうちの1つ。抜き刷りは実に世界で50万部以上売れているというベストセラーです。日本でも翻訳本が2005年6月に出版され、話題を呼びました。これまでの競争戦略のもとでは低コストで製品を生産するか、もしくは他者の真似できない製品を開発して差別化を行うか、いずれかの戦略で競争を勝ち抜く必要がありました。たとえば、ユニクロはデザインから生産、販売まで一貫したサプライチェーンを自社で賄うことにより低コストを実現し、質の高い低価格品で競争に打ち勝ちマーケットシェアを伸ばしてきました。また、ルイヴィトンやシャネルなどのブランド品はコストをかけてでも品質の高い製品を生産し、他社に真似できない差別化された商品を提供することにより、価格が高くても他社製品に流れないロイヤルカスタマーを育成してきました。
ところが、ブルーオーシャン戦略では、この低コスト化と差別化の両方を同時に達成することを目指します。このような観点に立てばブルーオーシャン戦略とは現代最強の競争戦略と言っても過言ではないのではないでしょうか。