東京に一極集中するのは、この建物の影響なのか? |
現在では政治・経済はもとより、企業の本社までもが地価下落の影響によって東京都内に集中する傾向があり、こうした一都集中が結果的に地価上昇を誘発しているからですが、今回は、関東と関西での分譲マンションの価格差や、阪神大震災以降の持家志向に対するマインドの変化、さらに関西の方の消費者心理について、大阪在住の専門家に話を聞きました。
分譲価格差は2割
「大阪市内では2000万円台からファミリータイプのマンションが購入できる」というのは、大阪市を拠点に住宅取得コンサルティングを行なう(株)アネストブレーントラストの荒井康矩社長。不動産経済研究所による「新築分譲マンション市場動向」によると、首都圏の新築マンション平均価格は約4050万円、近畿圏では同約3200万円という結果が出ており、平均価格で2割の販売価格差が存在しています。東京都内で2000万円台の3LDKを探そうとすれば、かなりの中古物件か借地権マンションなど、選択の幅は限定されることになり、それだけ関西圏の方が安く手に入ることが分かります。
2000年 | 2001年 | 2002年 | 2003年 | 2004年 | ||
首都圏 | 販売戸数(戸) | 95,635 | 89,256 | 88,516 | 83,183 | 85,429 |
販売価格(万円) | 4,034 | 4,024 | 4,003 | 4,069 | 4,104 | |
平米単価(万円) | 54.0 | 52.3 | 51.3 | 54.5 | 55.0 | |
近畿圏 | 販売戸数(戸) | 39,737 | 36,554 | 39,087 | 31,258 | 31,857 |
販売価格(万円) | 3,245 | 3,188 | 3,237 | 3,165 | 3,177 | |
平米単価(万円) | 44.1 | 41.7 | 41.4 | 41.7 | 42.0 |
【出所】不動産経済研究所
<補 足>首都圏:東京都 千葉県 埼玉県 神奈川県の1都3県
近畿圏:大阪府 兵庫県 京都府 滋賀県 奈良県 和歌山県の2府4県
確かに800万円もの価格差とは驚きですが、どうしてこれ程の開きが生ずるのでしょうか?荒井氏によると「“買いやすさ”を売りにする低価格マンションは、品質面でやや見劣りする傾向がある。関西の場合、良いマンションを作ろうという意識を持った中堅ディベロッパーは少なく、レベルの高いマンションをみると大手の物件ばかり」というのです。関東と関西で用地価格(地価)が異なるのは当然ですが、どうやら建物自体の品質(精度)にも価格を安くする“からくり”が潜んでいるようです。
さらに「時期による影響が大きく、2~3月に完成する物件の出来が明らかに悪い。一時期に竣工時期が集中するため、恐らく工期がきついからだろう。内覧会の同行では未完成の状態のようなマンションもあり、建築士が現地に行って驚くこともある。本当に大きな不良箇所と思えるケースは稀だが、担当者の対応がよくないために契約者の心象を悪くし、クレームへとつながることもしばしばだ。品質よりも人の質(社員教育)や、会社の姿勢の問題が大きいと言わざるを得ない」と問題点を指摘しています。
「不動産業はクレーム産業」というのは業界人の常識ですが、関西の方は自分の考えをストレートに伝える(自己主張が強い)傾向があるので、意見の衝突が起こりやすいのかも知れません。
タワーマンション人気は首都圏だけのブーム?
次に、関西圏のマンショントレンドについても質問してみました。タワーマンションブームについては「今年はかなりの戸数が発売される予定と聞いているが、結構、苦戦している話を聞いており、売れ残りも多いようだ。人気があるという印象は持っていない。また、首都圏にあるような大規模物件も少なく、総戸数が200戸を超えるマンションだとかなりの規模の部類に入る。大阪市内では現在、世帯数1000戸を超えるマンションが販売されており、注目が集まっている」そうです。タワーマンションの魅力の1つに「ステイタス」がありますが、プライドを強く意識する関東人の心理には合致しても、関西人のハートはつかんでいないようです。
さらに、「95年1月17日の阪神・淡路大震災を契機に、耐震性への意識が高まっている。相談時の質問にもよく挙がり、住宅選びの判断材料の1つになっていることは間違いない。特に、震災の影響が大きかったエリアの方は、身内や知人が被害に遭った話をすることも多く、今でも不安があることを口にする(荒井氏)」ことからも、高いところ(上層階)に住んだ際の「万が一」を心配しているのかも知れません。タワーマンションには高度な建設技術が使われるので、大震災が発生しても人命に影響するような被害は受けにくいはずですが、「過去の悪夢」を払拭するまでには至らないのでしょう。
「値引き」交渉はお約束?
最後に、こんな質問もぶつけてみました。
Q「やはり当然のように、営業マンに値引き交渉はするのか?」
A「弊社の首都圏と関西圏の顧客から受ける印象を比較すると、明らかに関西圏の方が価格についての質問は多い。しかし、値引き交渉は若い人ほど積極的ではなくなりつつあるように感じられる。関西の方は有料で相談すると、その分の「もとをとる」ということを意識する方が多く、(内覧会の同行時に)大きな不良箇所がないと、本来なら喜ぶべきことなのに、逆に不満そうな表情をすることがある」
あたかも漫才の「落ち」のような回答ですが、お金に対する“執着心”に、関東と関西では変化があるのでしょう。商人(あきんど)魂がそうさせているのかも知れません。
分譲マンションが供給過剰で、完全な「買い手市場」が形成されているのは関西も関東も同じ境遇です。こうした状況下で生き残っていくには、地域密着型の設計思想を取り入れたマンションの供給が不動産業者には求められるようになります。
「儲かってまっか?」
「ボチボチでんな!」
といった会話が飛び交うような経済が再び復活する日を、一日も早く期待したいものです。
【取材協力】(株)アネストブレーントラスト
【関連サイト】住みやすい街選び(関西)
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