景観保全をめぐり建築主と地域住民が対立するケースは後を絶たない
今年1月28日、東京地方裁判所から1つの判決が言い渡されました。その内容は「外壁の色について、法律上保護すべき景観利益はない」 ——。東京・武蔵野市に建てた漫画家 楳図かずおさんの自宅をめぐり、近隣住民から「景観を悪化させている赤と白のストライプの外壁を撤去せよ」などと提訴されていた裁判で、原告住民の請求が棄却。この日、被告の楳図さんに軍配が上がることとなりました。

こうした景観保全をめぐり建築主と地域住民が対立するケースは、過去、これまでに何度もありました。マンション建設のような大規模工事では、争いが長期化・複雑化することも珍しくありません。いままでの街並みを乱してほしくないと願う地域住民に対し、法律や条令の範囲内での“合法的”な建設であると主張する開発業者。そこには、マンションが私有財産であると同時に社会資産(一種の公共財)でもあるという、地域との「共生」「共存」を無視した建設を排除すべきといったメッセージが込められています。

近頃は「資産価値を意識したマイホーム探しをしよう」といったフレーズを見かける機会が増えました。ここでいう「資産価値」とは、一義的には「市場価値」のことです。しかし、同時に良好な景観(街並み)を付加価値とする「景観価値」も、マンションの資産価値を構成する要素の1つとして取り入れる必要が出てきています。

築30年を越える経年マンションが今後、増え続ける中、読者の皆さんの住むマンションのすぐそばで大規模な建て替えが行われることは非現実的な話ではなくなっています。つまり、誰もが争いの当事者になる可能性を持っているのです。それだけに、どうすれば良好な景観を維持し続けることができるのか?—— その答えを見つけることが欠かせません。そこで、今回は「景観利益」について、一緒に考えてみることにしましょう。

「色彩の暴力であり形の暴力」 憤りを隠せない原告住民


改めて、まことちゃんハウス訴訟の経緯を振り返っておくと、事の発端は建築の差し止めを求める仮処分を2007年8月、原告住民が東京地裁に申請したところから始まりました。しかし、2カ月後の10月12日、請求は却下されてしまい、いよいよ提訴に踏み切ることとなりました。訴訟にあたり、原告住民の主張は以下の3点です。


  1. 赤と白のストライプの外壁を撤去すること
  2. 屋根に取り付けた赤色の円塔から外が覗けないよう目隠しをすること
  3. 外壁を撤去するまで、原告に毎月10万円を支払い続けること

赤と白のストライプ(横じま模様)は楳図さんのトレードマークなのですが、「あんな建物は色彩の暴力であり形の暴力」と原告住民は憤りを隠せません。また、2番目は楳図さんの作品のキャラクターをイメージした赤の円塔が屋根に取り付けられていることに腹を立てており、この「物見塔」のような円塔から楳図さんが外を覗くことを阻止したいと考えているようです。そして最後は、金銭の要求です。

冒頭の判決理由(原告敗訴)について、東京地裁は「外壁の色彩に法的規制や住民の取り決めはなく、(この地域には)さまざまな色彩の建物が建設されている」と指摘、「保護されるべき景観利益があるとはいえない」と判示しています。さらに、「仮に景観利益があるとしても、景観の調和を乱すとまでは認められない」とも付言しており、原告側の主張をすべて退けました。楳図さんの全面勝訴となったのです。

ここで注目したいのが、「景観利益」という言葉です。今後のマンション開発にも少なからず影響を与えることは必至でしょう。