景観利益とは、良好な景観の恩恵を享受する利益のこと


景観保全をめぐる訴訟は枚挙にいとまがありませんが、その中で注目度・影響度ともに群を抜くのが、ご存じ、「国立マンション訴訟」です。当該裁判から、景観利益とは何なのか探っていくことにしましょう。

簡単に概要を振り返っておくと、東京・国立市で中堅マンション分譲業者の「明和地所」が14階建て(高さ44メートル)のマンションを建設しようとしました。ところが、古くから景観保護に力を入れてきた国立市は当該マンションの建築確認とタイミングをほぼ同じくして、高さ20メートルを超える建物の建築を制限する「高さ条例」の施行に踏み切りました。国立市長自らも旗振り役となり、事実上の「建設反対」を明和地所に突きつけたのです。

その結果、対立の構図は裁判所にまで持ち込まれ、ついに地元住民(地権者)を原告、明和地所を被告とする裁判へと発展しました。そして、この第一審(東京地裁)では判決として

 完成しているマンションの20メートル超(7階以上の)部分の撤去

を命じるという異例の結論が言い渡されました。「地権者が互いの理解と自己犠牲によって景観を守り、それによってその地域に付加価値が生み出されているような場合には、地権者は良好な景観を維持する義務とともに、景観の維持を求める法的利益を有する」—— これが景観利益です。良好な景観の恩恵を享受する利益のことを景観利益と定義し、景観利益を初めて裁判で認めたのでした。

景観は地域の“共有財産” 侵害は誰にも許されない


ところが、この結果を不服とした明和地所が控訴し、第二審(東京高裁)へと続きました。何と、控訴審判決では一審がくつがえされ、原告住民は敗訴を言い渡されることとなりました。「景観が良好か否かの判断は個々人によって異なり、主観的で多様性があるため、行政が総合的な見地から施策を推進すべきである」「一部の住民に権利・利益を認めれば、かえって調和の取れた景観形成の妨げになる」というのが、その理由です。裁判官によって正反対の結論になるのは、それだけデリケートな問題だからに違いありません。

こうして“一勝一敗”の引き分けとなった原告と被告。いよいよ最終決戦は最高裁へと持ち越されました。

結論から申し上げると、原告住民の上告は棄却されました。「良好な景観の恩恵を受ける利益は法的保護に値する」として景観利益は認めたものの、「利益が法的に侵害されたと言うためには、法令や公序良俗に反するなど、社会的に認められた行為としての相当性を欠く程度のものでなければならない」と利益侵害や法令違反のないことを指摘しています。

確かに、国立マンションは建築基準法などに抵触した違法建築物ではありませんので、法律の枠を超えた範囲にまで司法の力が十分に及ばないのは無理もないのかもしれません。

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まことちゃんハウス訴訟では景観利益そのものが否認されています。近隣住民の気持ちも理解できますが、たとえ不快の念を抱かせたとしても、私生活ないし平穏生活権を過度に侵害するものではないだけに、一定の合理性のある判決だと個人的には感じています。

となると、結論として住民紛争を予防する最後の“よりどころ”は、「景観(街並み)が地域の共有財産である」という意識や、周辺住民への配慮に委ねざるを得ないでしょう。法規制を強化して締め付けたところで、そこに住む住民が窮屈になってしまっては、良好な住環境が醸成されるはずもありません。

月並みではありますが、最後は「良識」による判断となるのでしょう。「自分さえ良ければ……」といった考えを改めることが、住民紛争を減少させる妙薬となるに違いありません。
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