「人生の成功とは何か?」「なぜ我々は働くのか?」
このような根源的なテーマを問い続けている田坂広志さん。その著書に勇気づけられた読者も多いのではないでしょうか?
今回は田坂さんに、現在のマネジメントの世界で起きていること、そしてマネジャーに対するメッセージをお聴きしました。そのインタビューを二回に分けてご紹介します。
《CONTENTS》●だれも「人に使われたい」とは思っていない(1P目)●「人」は「機械」ではない(1P目)●「部下のモチベーションを高める」というけれど……(2P目)●利益は「目的」ではなく「手段」(2P目)●仕事は何かの手段ではない(3P目)
シンクタンク・ソフィアバンク代表・田坂広志さん1951年生まれ。1974年、東京大学工学部卒業。1981年、東京大学大学院修了。工学博士。米国シンクタンク・バテル記念研究所客員研究員を経て、1990年、日本総合研究所の設立に参画。同社技術研究部長、事業企画部長、取締役・創発戦略センター所長を歴任。2000年、シンクタンク・ソフィアバンクを設立し、代表に就任。同年、多摩大学大学院教授にも就任。「社会起業家」をめざす次世代の人材の育成に力を注いでいる。 2001年より、新しい時代の生き方と働き方を学ぶコミュニティ、「未来からの風フォーラム」を主宰。現在、8300名のメンバーに対して、毎週、メッセージ・メール「風の便り」を配信し、インターネット・ラジオ「風の対話」を放送している。 |
だれも「人に使われたい」とは思っていない
――「相手は自ら答えを見つける力を持っている」と信じて相手にかかわっていくのがコーチングですが、マネジメントにおいて「部下をコントロールするスキル」として使われがちです。この点について田坂さんはどう思われますか?
田坂:「自由に人を動かしたい・操作したい」。これは「操作主義」と呼ばれる心理であり、多くの経営者やマネジャー、ビジネスパーソンが陥る落とし穴です。我々の心の奥深くに潜むこうした操作主義的な心理は、非常に根深いものであり、それは、現代という時代の病とさえ言えるものです。例えば、書店に並んでいるビジネス書を見てみてください。
「部下を思い通りに動かす技術」「相手の心を自由に操るテクニック」「相手を説得する秘訣」「こうすれば部下はあなたについてくる」……。
こうした操作主義的な言葉が、タイトルや見出しに溢れています。また、しばしば耳にする「人に使われるより、人を使う人間になれ!」といった言葉にも、操作主義が潜んでいます。
「人」は「機械」ではない
―― 確かに……。私自身もコーチング・マネジメントの記事を書いていて、「こうすれば相手はこうなりますよ」という操作主義的な考えで書いているかもしれません。他人事ではありませんね。
田坂:人は「人」であって「機械」ではありません。そして何かの「道具」でもありません。自分が逆の立場になってみればよくわかります。だれも「人に使われたい」とは思っていません。「人として遇されたい」と思っているのです。
例えば、もし自分の上司が、自分の知らないところで『部下を思い通りに動かす技術』などという本を読んでいたとしたら、どう思いますか? 我々は、そんな上司についていくでしょうか? そんな上司の下では、部下が喜びをもって働くことはないでしょう。
「モチベーションを高める」という言葉の落とし穴 次ページへ>>