ウイスキーのいぶし銀
秋刀魚はマグロや鯛のような高級魚ではない。ただなくてはならない、いぶし銀のような魚だ。角瓶も同じ。シングルモルトが脚光を浴び、響のような高級ブレンデッドウイスキーが世界的名声を得るなか、角瓶は70年間、日本のウイスキー飲みたちの傍で静かに輝きつづけてきた。けっして声高ではなく、その姿は静謐といってよい。いぶし銀の存在。
上/白角は端麗でやや辛口。食中酒として最高。下/黒43°は濃く芳醇な香味。 |
1937年、10月8日誕生。当時、舶来盲信の好事家たちが角瓶には一目置いた。だが間もなくに太平洋戦争となり、そして終戦。市民には角瓶は高級すぎて手を伸ばすことはできず、たちまちトリスの時代。また1950年登場のサントリーオールドは角瓶の上を行く超高級酒として神格化される。60年にはさらに上のローヤルが華々しく登場。
1964年にジャスト500円のレッドが発売され、家庭用として人気を博し、69年にはオールドの上級品サントリーリザーブが発売。70年代から80年代前半は高度成長とともにオールドが手の届く酒となり大ブームとなる。
オールドは80年代前半、世界でもっとも飲まれていたウイスキーだった。
これが日本の人気ウイスキーの大まかな歩みだ。その後は長期熟成、シングルモルトといったウイスキーが注目を浴びる時代となる。
70周年を祝おう
この間、角瓶はひたすら静かに飲まれつづけてきた。主張するわけでもなく、淡々とゴールデンブラウンの輝きを放っていた。そしていつの間にか70歳。実はいま、日本でいちばん飲まれているウイスキーはこの角瓶なのである。
カッコイイではないか。ただのロングセラーじゃないんだぜ。しかも時の流れが生むブームのほろ苦さも知っているウイスキーだ。さあ、飲め角瓶を。70歳を祝おう。
この秋、角瓶を飲まずして,ウイスキーのことをフニャフニャと語る人間を私はゆるさん。
『日本のウイスキーづくり80周年、情熱の時代 ひとりの男の魂が宿った、傑作』も一読いただきたい。