絵が浮かぶ、名文コラム集
『大阪名物』(創元社・¥1,500税抜き)。ページをめくると、大阪名物ひとつひとつが語りかけてくる。 |
『大阪名物』(創元社刊・¥1,500税抜き)。大阪を中心に活躍されている井上理津子氏、団田芳子氏の共著で、なんとまあ心地よい本であることか。歯切れよくて、端的な文章から、ひとつひとつの品の持つ背景が見事に伝わってくる。
いい文章には絵がある。ひかりがあり、影があり、風があり、温度があり、色香がある。一見開き、一品が紹介されているのだが、一見開きごとに絵が浮かび上がるいい文章なのだ。
さて大阪の名物って何があるのだろう。たこやき、と即答する人もいるだろう。私の場合は食べ物がすぐに浮かばない。夜のキタやミナミのバーをはじめとした酒場、そして大阪城が頭の中に登場してから、やっと今井のうどんがおもむろに香りはじめる。
食いだおれ、なんてキャッチがある土地ゆえに、いろいろありすぎて、との逃げ口上も吐けるのだが、実のところは何も知らないのだ。何度も大阪に出かけながら、名物なんて意識したことがない。
共著のふたりの女性は“はじめに”で新大阪駅で人気のおみやげが伊勢名物の赤福、京名物の八つ橋だと嘆いている。そこから大阪名物の探究がはじまったようなのだが、ほんとうによく歩いて、吟味、厳選して、市井の名物を掘り起こしている。ソース三傑やポン酢四傑など読むとそれがよくわかる。また、たこやきを一品選ぶなんて困難に挑戦している。私にはできない仕事だ。
これは男と女の違いがあるのかもしれない。男ってのはどんなナイスガイもバランスってものを重視してしまう。政治的バランスってやつ。ほらあなたの近くにいる男をごらん。すぐ目の前の上司。良くも悪くも、バランス。どちらかというと迷惑バランス、でしょ。
大阪名物にウイスキーがある
山崎のウイスキーは大阪名物。高品質のウイスキーが名物にあるなんて、大阪の人はいいな。 |
山崎蒸溜所のショップに行かなくては手に入らない、樽出原酒15年貯蔵(190ml、¥3,780)が名物の中に入っていた。たしかに山崎のウイスキーは大阪名物である。
よく「日本のウイスキーの故郷は京都郊外にある山崎蒸溜所」と私なんぞは書いてしまう。実はあそこは大阪府なんだよな。京都駅からあまりにも近い距離にあるので、京都郊外の方がピンとくる。でも府境にあって、たしかに大阪だ。でも大阪の人はいいな。名物に高品質ウイスキーがあるなんて。そんな都道府県、極めてすくないんだから。
では次ページでは、さらに美味を紹介する。(次ページへつづく)