1984年に発売されたシングルモルトウイスキー山崎12年。その製品開発の原酒サンプリングを、当時のチーフブレンダー佐藤乾氏の下でおこなったのは奥出氏だった。
ブレンデッドウイスキー主流の時代、シングルモルトへの認識がまだ浅かった彼は、いったいどんなウイスキーが生まれるのか想像できないまま無我夢中でサンプリングしたという。

Why We Fight?

昨年夏、奥出氏とふたり、山崎の貯蔵庫内を巡回したことがある。
長期熟成のひと樽にモルト原酒の漏れがみつかった。彼は大きな身体を樽と樽の間に押し込み、屈み込んで応急修理をはじめた。
貯蔵庫の静けさの中、とても長い時間が経ったような気がした。修理を終え、樽の間から出てきた彼は汗まみれになっていた。
「原酒を粗末にしたら、醸造や貯蔵の先輩たちに申し訳ない」
そういって彼は、傍の樽を愛しそうに撫でた。

こんな庫人たちに見守られて熟成するから、ウイスキーは旨いんだ。だから深い熟成感で飲み手を魅了するんだ。その時、そう実感した。
そして奥出氏と一緒にいると自分が穏やかな優しい心持ちになっていくのを知るとともに、この人のまろやかな人間性はいったいどうやって育まれるのだろうかとも思った。

生来の優しい心根が、長年樽と原酒を見守る仕事によってよりまろやかになったのではないか。モルト原酒が樽の中で長い年月を経て熟成するように、庫人もまた熟成していくのか。

山崎のイルミネーションを背に受けながらJR山崎駅へと足を向ける。
ふと、思いが飛躍する。人類はこの非効率の中から生まれるスロー・ドリンクをもっと愛さなくては。理解しなければ。
自由の名のもとに民主主義を都合よく解釈する軍事国家に人類は振り回されてはならない。石油の利権のために武器を取り、人を殺してはならない。戦争放棄という至宝を失ってはならない。小泉首相のもとに集うマドンナと呼ばれる女性議員たちよ。あなた方は自分の子どもに武器を持たせたいと思うか。思うはずがない。Why We Fight? ローマは永遠ではなかった。歴史から何を学んだというのだ。

やがて背に浴びた光は淡くなり、闇は濃くなる。
穏やかだった私の心持ちが歩を進めるほどに激していく。これが日常というものなのだろう。急にバーへ行きたくなった。
もっとウイスキーを。ウイスキーの熟成感が人をまあるくする。

『職人の肖像』第4回を是非お読みいただきたい。
また前回のこのシリーズウイスキーづくりの職人 第3回『ドレスアップの前に、まずは骨格』も是非どうぞ。
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