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ウイスキー&バー/ウイスキー&バーの美味しい話

思い出トランクに詰めた酒の話。第2話 作家たちのウイスキー・タイム(2ページ目)

故石津謙介氏の思い出のカクテルにつづく連載2回目。人気作家の方々にかつてうかがったお話の中から、とくに印象に残ったエピソードだけをまとめてみた。作家のウイスキー・タイムとはどんなものか。さあ、どうぞ。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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あの時は、ラフロイグのキックが利いたクセのある味わいが好きとはおっしゃったが、特定の銘柄はなく、山崎12年のような深くまろやかな香味が飲みたい時もあり、気分によって銘柄は変わるようであった。だから飲み方も気分次第で変わる。

心が満ち足りている時はロック。本を読みながらとか、何かしている時は薄目の水割り。とくにそのころは1対1の水割り、トワイスアップのふわっと広がる香りを楽しみながら飲むことが多くなったとおっしゃっていた。
さて最近の桐野氏はどんな飲み方をされているか、聞いてみたいものだ。

人気作家のホットウイスキー

コピーライターである私は、一応文章書きである。たまに雑誌に執筆することもあれば、酒のエッセイを連載することもある。
ただ、酒が一滴でも体内に入れば私は書かない。格好つけているのではない。書く気がしないからであり、どうせしっかりとした文章にはならないとの確信があるからだ。

宮本輝氏の面白い話がある。新聞にエッセイを連載していた時、1回分のストックがあるはずだからと安心していたら勘違いで、酒場で慌てて書いたというものだ。
飲んでいた酒場に電話が入る。新聞社の担当記者からだった。その人は宮本氏の立ち寄りそうな店に電話をかけまくったらしい。「締め切りの時間がありません」と泣き声で訴えてきた。なんせ新聞だから最終締め切り時間というものがある。だから必死だ。

大慌てで原稿用紙を入手するために走りまわる。家に帰って書く時間などないのだ。店の従業員も走りまわり、コンビニで原稿用紙を入手してくれた。そして酒場のテーブルの上をかたづけてもらい、とにかく締め切りに間に合わせた。
「僕の場合、飲んで書いたらアカンな」
宮本氏のそのアカンなは、妙に説得力があった。一流の人気作家もそうなんだ、と私はとてもとても安堵した。
「その連載を一冊の本にまとめる時、酒場で書いた1回分だけが浮いてて、異質だった。かなりの加筆訂正やったな」
宮本氏は笑いながらおっしゃったが、その苦労はなんとなくわかるのだ。


宮本氏の好きなウイスキーはオールド・パー。自宅ではオールド・パーのお湯割りを飲むそうだ。胃腸が強い方ではないらしく、夏でもホットウイスキーらしい。
「僕のウイスキーは、ごくろうさんの酒」
こうおっしゃる宮本氏は深夜、というか朝方に仕事を終えると、ホットウイスキーをゆっくりと飲む。高揚した精神を鎮め、自分の憑依力を讃える。桐野氏に通じるものがある。

ウイスキーは優しくタフな酒、懐の深い酒。だからこそ、いろんな心情の人の心を受け止め、その人の素直な感情を浮かび上がらせる。ただやはり、自分に満足している時の一杯は最高に旨い。

前回の同シリーズ『アイビーの神様のカクテル』もご一読いただきたい。
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