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ウイスキー&バー/ウイスキー&バーの美味しい話

思い出トランクに詰めた酒の話。第1話 アイビーの神様のカクテル

いろんな方々からこれまでにお聞きした、酒にまつわるちょっといい話を伝える新シリーズ。思い出というトランクに詰めた話の中から、1回目は先月亡くなられた服飾評論家の石津謙介氏のエピソードを紹介しよう。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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5月24日、服飾評論家の石津謙介氏が亡くなられた。93歳だった。
何度か石津氏にお会いしている。訃報を耳にしてすぐに思い出されたのが、初対面だった17年前のこと。石津氏は76歳で、私はちょうど30歳になろうとしていた。

VAN、アイビールック、トラッドと日本の男性ファッションに多大な影響を与えた方にお会いして、少しばかり緊張したのを覚えている。お話をうかがうと優しくて穏やかで、きわめて丁寧に語ってくださる素敵なおじさんという印象が残った。

「お酒は何が好き」と私に問われた。正直に、ウイスキーが好きで、当時は仕事の関係でバーボンをたくさん飲んでいて、次にジャパニーズ、スコッチだと私は答えた。
すると石津氏は「バーボンは肩が凝らなくていいですね。スコッチはどうしても気取りが出てしまう」と言われて気が楽になり、それからは非常に打ち解けた会話ができるようになった。

ブラッディ・メアリーの特別レシピ

石津氏に教わったブラッディ・メアリーのレシピがある。これはニューヨークのアルゴン・クィーン・ホテルにかつていた、ジョージと呼ばれた名物バーテンダーのオリジナル・レシピだ。
石津氏はニューヨークへ行くと必ずジョージのカクテルを飲んだ。
とくにブラッディ・メアリーが抜群に旨い。


「レシピを教えてくれと、何度聞いても、ジョージは絶対に口を割らない。ニューヨークに在住されていた画家の高井貞二さんに、頼むから聞いておいてくれ、と言い残していつも帰国していました。ところが根負けしたんですね。ある日、ジョージが高井さんにそっと教えたんです」
こう言うと石津さんはいたずらっぽい笑顔を浮かべた。

ウオツカにトマトジュース。かくし味はウスターソース、タバスコ、ホースラディッシュをすりおろしたもの、冷たいコンソメスープ。これらを少量入れるというものだった。
「高井さんも、ジョージももういない。大切な仲間を失った。でも僕は相変わらず自作でジョージのカクテルを飲んでいます」
17年前、石津氏は私にこんな話をしながら特別レシピを伝授してくださった。


いままで私はこのレシピをずっと胸の中にしまってきた。石津氏が亡くなられたいま、思い出というトランクを開けることにした。
このサイトを借りて、ニューヨーク、アルゴン・クィーン・ホテルの人気バーテンダーだったジョージのレシピを公表する。

石津氏の愛した味わいを、皆さんも味わっていただきたい。ただし、冷たいコンソメスープ、これを常にストックしているバーは少ない。ジョージはホテル・バーマンだったから困ることはなかっただろう。時間があれば、自分なりのベスト・レシピを試してみるといい。

さて、石津氏との思い出トランクには、もうひとつ、特別な話が残っている。(次頁へつづく)
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