外国のバーで時折見かけるのがミニマム・チャージだ。最低保証というか、これだけは最低限の席料としていただかないとやってられません的なチャージ料のこと。日本のバーもそれを真似たのだと思うし、また日本的な考え方で定着したのではないだろうか。
海外生活の長かった知人が帰国してこう言ったことがある。
「日本のバーはどこもカクテルが旨い。それは凄い。でもオーダーしていないのにナッツやチョコレートが出てきてチャージ料を取る。それが嫌だ」
なるほどと私は思ったが、「それなら日本のバーに入らなきゃいいんだ」と冷たく言い返した。郷に入ればなんとやらだ。
そしてまたひとつの例。
その店はゴージャスな花を飾り、グラスはアンティークをはじめ高級品ばかり揃えている。おしぼりだってふかふかの上等なハンドタオルを出す。
ある夜カウンターの奥で顔見知りの広告代理店の男が女連れで飲んでいた。10日ほど前に会った時とは違う女性だった。しばらくすると男はバーテンダーと私に会釈して、女とともに出て行った。するとバーテンダーが溜息をついた。
「どうしたの」と聞くと、私に気をゆるしているバーテンダーがふて腐れてこう言ったのだ。
「いつも女連れでハウス・ワインを一杯ずつ。それで2時間も口説いているんですから。こっちは困っちゃいますよ」
頭の中で私は計算した。チャージ料1,500円、ハウスワイン1,500円でひとり3,000円。ふたりで6,000円か。それで2時間。店にとっては嫌な客だ。こういう客がいるからチャージ料を取ってなくちゃやっていけない。そこで私は言った。
「この後のホテル代のことも考えてあげなよ。一生懸命なんだよ彼は。ひとつのことに打ち込んでるんだから応援してやろうぜ」
するとバーテンダーはさらにふて腐れた。
「うちはね、ホテルのウェイティング・バーじゃありません」
ちょっと冗談が過ぎた。反省、反省。しかしカクテル・バーでハウスワインとはね。詮索したくなる。
さてバーテンダーは清潔感が第一。どこかに不潔さを感じられたら失格。私がバーの紹介で時々トイレを誉めることがあるが、それは清潔ですよ、いいバーテンダーですよ、という意味なのだ。
チャージ料を1,500円とか2,000円取りながら、清潔感がなかったら、トイレがいまいちだったら、そのバーは失格である。
バーなんだからカクテルは旨くて当たり前なんだ。それに女性はトイレって気になるんじゃないかな。
今回はここまで。このシリーズの次回はまた6月。次回は嫌われる客について書こうと思う。
記事3『ライムやレモン、どうする?』もご一読いただきたい。
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