ウイスキーベースのカクテルの佳品を紹介しよう。
ただしスタンダードではない。銀座の名店『テンダー』のオーナー・バーテンダー、上田和男氏のオリジナル・カクテルだ。
かつてスコッチウイスキー・カクテルコンクールという大会があったが、これはその1986年大会の優勝作品である。
口にすると、誰しも、「意外だ」と感じ入るだろう。ウイスキー・ベースでありながら非常に柔らかい口当たりだ。オレンジリキュールやフレッシュライムが溶け込んでいて、甘酸のバランスの取れたふくらみのある味わいに仕立て上げられている。
ウイスキーに馴染みのない若い女性も心地よく愉しめる佳品だ。
ベースのウイスキーにはクセのない滑らかなブレンデッド、ホワイト&マッカイ・ブルー・ラベルが使われている。もっとウイスキーの香味を利かせて欲しいという客にはオールド・パーがベースとなる。
私はホワイト&マッカイの方を好む。あえてベースを強調する必要はない気がする。たしかに私はウイスキー好きだが、このカクテルは柔らかいウイスキーを使うことによって完結していると思うからだ。
『キングス・バレイ』とは『谷の王者』。スコッチの故郷スコットランドはスペイサイド辺りの渓谷をイメージして創作されたものだ。
グラスに湛えられた緑が王の色である。この色、上田氏が世界で初めて緑色の材料を使うことなく創出した。
絵画の世界では当たり前の色の組み合わせだが、ブルーキュラソーを使って緑色にするカクテルが、それまではなかったということだ。
その他にも上田氏には名作がたくさんあるのだが、すべてを紹介する訳にはいかない。是非出かけて、いろいろ試してみて欲しい。自分の好みを言えば、必ずふさわしい香味のカクテルをつくってくれるはずだ。