毎年トークショーを通じて日本を代表とする作家の素顔に触れられると好評だが、“謎2002”のオリジナル・ブレンデッド・ウイスキーづくりに挑戦したのは6名の作家だった。
逢坂剛、大沢在昌、北方謙三のレギュラー陣に今年は山田正紀、桐野夏生、我孫子武丸の三氏が加わった。
7月9日にサントリー山崎蒸溜所に6名が集まり、個性の違うグレーン原酒3種、モルト原酒7種の計10種をブレンドした。
その中から、暗闇の中に射す一条の光『ダークエンジェル』をブレンド・コンセプトとした桐野夏生さんのウイスキーが最も高い評価を得て、4ヵ月の後熟を経て“謎2002”として製品化された。
新作小説『ダーク』を発表したばかりの桐野さんと会場で立ち話(写真下)をする機会があったが、本人は「ビギナーズ・ラック」と謙遜していらっしゃった。
実際、ウイスキーが蒸溜したては無色透明で、樽熟成という長い年月を経て琥珀色に生まれ変わり、華やかな香味となることや、原酒のブレンドそのものも知らなかったらしい。
ちなみにブレンデッドウイスキーは、モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしてつくられる。
モルトウイスキーは麦芽を発酵させて単式蒸溜器(ポットスチル)で通常2回蒸溜し、オーク樽で熟成させる。香味の個性が強いためラウド(声高な)スピリッツとも呼ばれる。
グレーンウイスキーは麦芽とトウモロコシ、小麦などの穀類を原料として発酵させて連続式蒸溜機を用いて蒸溜し、オーク樽で熟成させる。こちらは香味が軽い穏やかな性格のため、サイレント(静かな)スピリッツと呼ばれている。
この2種の原酒をブレンドするわけだが、ひと口にモルト原酒といっても熟成時の樽のタイプや熟成年数、貯蔵庫内での樽の熟成位置などによって香味の個性は違う。
ブレンダーは個性豊かな多彩なモルト原酒を組み合わせ、めざす製品のモルトウイスキーの個性に仕上げなくてはならない。これにさらにグレーン原酒を合わせて、やっとまろやかな香味のブレンデッドウイスキーになる。
桐野さんの“謎2002”はモルト原酒7種、グレーン原酒3種の計10種をブレンドしたものだが、通常私たちが口にするブレンデッドウイスキーは、それよりはるかに多い原酒が使われている。
またシングルモルトがいま人気だが、世界で飲まれているウイスキーの9割以上がブレンデッドウイスキーなのだ。
ブレンデッドの良さはやはり「まろやかさ」といえる。桐野さんのブレンドした“謎2002”はまろやかで華やかなコクの中に、グリーンアップルのような香味が潜んだ、なかなかミステリアスな逸品だ。
他の作家5氏の香味はわからないが、同じ原酒をブレンドしても、原酒の配合比が違えば香味に随分と差が生じる。それがブレンドの奥深さ、面白さでもある。
ミステリー作家たちは樽熟成の神秘やブレンドの妙に感じ入って、「ウイスキーこそ、謎そのもの」と言う。
桐野さんの作品を読みながら、味わってみるのもいい。
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