イタリアの記憶をたどる
取材時のワインリストには、スパークリングワイン10種を含むフルボトルのワインが127種、グラスで頼めるワインが15種類、ハーフボトル12種類。ほとんどがイタリア産で、ひとつひとつのワインと生産者の名前が原語とカタカナで明記され、使用ブドウ品種、アルコール度数、州名を書き添えている。これは想像を絶する手間がかかるはずだが、客にとってはいちいち尋ねなくても済むのでありがたい。手頃な価格のお値打品が豊富だが高級品も備え、バランスのよいセレクションが秀逸である。また特筆すべきはアルコール以外の飲物の豊富さである。ミネラルウォーター5種からノンアルコールビールまで常備され、食後にはリキュールやスピリッツが24種類、香り高いエスプレッソやオーガニックダージリン紅茶をはじめとするお茶の類が9種類選べる。素晴らしい食事には、すぐれた脇役の存在がことのほか重要だが、これほど充実した揃えにはなかなかお目にかかれない。
サービスの小川氏とシェフの百瀬氏に話を聞いていると、「自分が感じたイタリアというものを、店で料理を食べる人にも感じて欲しい」という熱意を感じる。考えてみれば、イタリアでは各地方に独自の食文化があり、ひとつの料理体系というよりは多彩で豊かな集積である。どの州にも、そしてどの街にも、独自の食材や料理があり、その多様性がイタリア料理の大きな魅力であり、奥深さだといえる。その多様性を自分の体験として血肉としてきた両氏が、いまでは日本、そして東京、という地域性を加味して独自の「イタリアらしさ」を体現しているのだ。
あなたはここへ行って、スペッキオに食卓を委ねるだけでいい。ここなら、ちょっと遠くから訪れるだけのことはあるではないか。
■ SPECCHIO
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