乳飲み仔豚で伝える味わい

肉料理の皿はポルケッタ(豚の丸焼き)をイメージした、ロンバルディア州で育った仔豚のローストだ。よく言われる「ミルクしか飲んでいないからクセがない」「仔豚だから柔かい」といった軟弱なイメージではない。乳を飲んでいるような幼い豚ながら、豚の旨味と香りがぎゅっと凝縮されている。また、皮と骨がついたまましっかり焼いているので、皮目はカリッと肉はコリッと歯ごたえ充分だ。クラシックなローストで付け合せの野菜を肉の周囲に置いて一緒にローストする形を踏襲し、付け合せはカブ、タマネギ、ニンジン、ジャガイモといった焼き野菜である。

日本ではやたらと「柔かい」肉が誉められる傾向がある。乳飲み仔豚でも、柔かくて味があるかないかというようなものを使えば無難ではある。だが百瀬シェフは「柔かい肉では味わえない、この美味しさを知って欲しいんです!」と、このロンバルディア産、しかも皮付き(国産豚の場合、皮付きはごく一部しか出回らないのだそうだ)を使う。じっくりと噛みながら染み出してくる旨味を味わうと、歯ごたえと風味に圧倒される。

『ロンバルディア産乳飲み仔豚のポルケッタ仕立て』

『黒オリーブとローズマリー入りのパン』
肉らしい肉のローストだから、合わせるパンもメリハリの効いたものがいい。ポルケッタと同じくトスカーナ風の『黒オリーブとローズマリー入りのパン』なら酸味や油分を含んだオリーヴそしてインパクトがある芳香のローズマリーが、どちらも仔豚の風味を際立てると同時に赤ワインとも調和する。

合わせたワインはポルケッタと同じトスカーナ東部アレッツォ県で造られるキアンティ。サンジョヴェーゼとカナイオーロの両品種を使いジャコモ・マレンゴ社が造った『カステッロ ディ ラパーレ 2004年』。現地で認証を受けたオーガニックワインである。さらさらと透明感がある飲み口で、ソフトでエレガントながらチョコレートやチェリーを思わせるコクがたっぷりで、この料理の旨味が凝縮されているが風味のタイプが赤身肉ほど濃厚ではない肉質にもって来いのスタイルのワインだろう。

デザートは『小玉西瓜の冷たいスープ ココナツのジェラートと共に』と聞いて、試したことのない組み合わせに興味をそそられる。だが食べてみると、小玉スイカを搾ってよく冷やしたスープにココナツのジェラートが溶け込んで、なかなかインパクトがある。ココナツを一緒にすることで、スイカにも独特の酸味があることが再認識させられた。またナッツをカラメルで固めた焼き菓子は、ざくざくとした歯ごたえで香ばしいアクセントになっており、3つの要素が絶妙な組み合わせである。

『小玉西瓜の冷たいスープ ココナツのジェラートと共に』

百瀬シェフにどのように発想してこの組み合わせになったかと訊くと、「じつはですね、最近暑くなって、ローマの街角にいるスイカ売りとココナツ売りを思い出したんです」と答える。ローマでは夏に冷たいものを売る露店が出るのだが、そこで切ったスイカを自身が買って食べたり、ヤシの実の核にワインやスピリッツを垂らしたりした冷たいココナツミルクを飲んだ、その体験を組み合わせてみたのだという。なるほどイタリアに住んでいた彼の引出しには、こんなエピソードが数多くストックされているのだろう。

『ディンダレッロ 2006年(ファウスト・マクラン)』

さて、イタリアはデザートワインの宝庫でもある。デザートに添えてもらったのは、ヴェネト州のモスカート種のみでマクラン社が造る『ディンダレッロ 2006年』はアルコール分が控え目で、糖分はリットルあたり150グラム以上と充分。清冽な花やマスカットの香り、ハチミツや冷やした完熟パイナップルや黄桃コンポートのような味わいで、グルメにはたまらなく甘美なものである。このワインとデザートを交互に味わうと、フルーティーさの中にある甘味や酸味が心地良い波状攻撃を仕掛けてくるのだ。