持ち味を「軽さ」に昇華
主菜の『フランス産マグレ鴨のグリエ マニゲットペッパー風味 根菜添え』で下村シェフは、分厚い皮下脂肪がついた鴨肉をいとも軽やかに食べさせる。よく切れるナイフでするりと切り分け、ピンク色で柔らかに仕上がった肉と香ばしい脂身のハーモニーを味わう。あふれ出す肉汁に鴨の脂の香りがほどよく絡み、さっくりした脂身は噛みしめるほど旨味が出る。まさに、「軽くて旨い」。鴨肉の皮目に切れ目をたくさん入れた面をフライパンに乗せて焼き、皮下脂肪から溶け出した脂を肉にかけつつ加熱して脂身をカリカリに仕上げ、鴨の出汁を煮詰めたソースが少なめに添えられる。肉に散らしたマニゲット(Maniguette)という香辛料はアフリカ産のショウガ科植物の種子で、14世紀頃から胡椒の代用品としてさかんにヨーロッパに輸出されフランス北部でよく使われたという。爽やかな芳香が鴨肉の風味とよく合う。
自然薯のムカゴ、ラディッシュ、キクイモ、ダイコン、ビーツなど付け合わせの野菜も念入りに調理されている。むかごはほっくりと香り、根菜を噛みしめると汁がじゅわりと口中にほとばしる。それぞれの甘味や香りが引き立つ火入れ加減で、鴨に負けない季節感そして存在感を味わわせてくれる。濃厚な鴨に対して、ジューシーで風味豊かな野菜が用意され、交互に食べれば最後まで飽きずに両方楽しめる。
この一皿に合わせてもらったのは、メゾン・ルロワのシャトーヌフ・ド・パプ2000年産である。フランスはローヌ地方の南部で造られたワインで、ほどよく熟成したものだ。銘柄によっては熟成するにつれて埃やなめし革のような熟成香が出る地域だが、これはあくまで透明感があり、スモーキーなほろ苦さとしなやかな果実味がバランスよく実にエレガントなスタイルである。獣の香りがありながらピュアでクリアな料理と見事に調和する。