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靴に使う「牛革」を深く考えてみる その2(4ページ目)

今回の「メンズシューズ基礎徹底講座」では、「皮を革にする」鞣し方法の代表例を解説します。伝統的な方法の延長形と、科学技術の進歩から恩恵を受けた方法、いずれも靴のどこに使うか? がキーポイントです。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

科学技術と環境の両立

つま先
クロム鞣しが行われた革を用いたアッパーのつま先です。この艶がまた何ともたまらないのですが、今後はこのような美しさだけでなく、製造や処分する際の環境にも更なる配慮が必要になって来るでしょう。


と言うわけで、大まかに申せば革靴の場合、
「ソールは植物タンニン鞣し。アッパーはクロム鞣し」
という図式が20世紀以降はほぼ安定して成り立って今日に至っています。しかし今後は? と問われると、必ずしもそうとは言い切れません。それは「クロム鞣し」の側で革そのものの品質以上に、生産そして使用後における環境面での大きな課題が浮かび上がって来ているからなのです。

クロム鞣しに用いる三価クロム塩自体は無害ですし、その方法で作られた革自体も身に付ける分には全く無害なのですが、製造時に生ずる革屑や劣化した靴を焼却処分せざるを得ないような場合、方法を間違えると三価クロムの分子構造が、有害な六価クロムに変化する恐れがあるのです。皆さんのお住まいの地域では、革靴をゴミとして出さざるを得ない場合、「燃えないゴミ」として出しますか? それとも「燃えるゴミ」としてでしょうか? これが地域によってまだバラバラなのは、どうやら清掃工場での焼却方法が上記の六価クロムが生じてしまうか否かの違いもあるようです。

またクロム鞣しの場合は成分が自然界に還り難いため、製造時に出る革屑のみならず排水についても、植物タンニン鞣しの製造から出るもの以上に環境に配慮して処理しなくてはいけません。それらを十二分に意識・実践した生産設備を運営するとなると、この方法の製造コスト面での利点があまり多くはなくなっているのも事実で、クロム鞣しを得意とした欧米の著名タンナー(鞣し業者)が1990年代の終わり頃から相次いで廃業してしまったのも、その辺りが密接に絡んでいます。

かと言ってクロム鞣しの革には前のページにも書いたとおり、まだ他の方法では成し得ないような素晴らしい特性があるので、今後もこれが主流であることには変わりはないと思われます。ただ、その比率は徐々に下がって植物タンニン鞣しやそれとクロム鞣しを融合した「混合鞣し(クロム鞣しを先に行う場合は『コンビ鞣し』、植物タンニン鞣しを先に行う場合は『逆コンビ鞣し』と言います)」、或いはアルミニウム、動物の油脂、合成タンニンなどを用いる所謂「非クロム鞣し」の比率が高まることが予想されます。その変化のスピードが速まるのか否かは、皮革に関わる科学技術面での研究の進歩と、皮革を実際に使用する我々の意識や価値観の変化次第なのでしょう。

では、鞣された後の「革」がどのように加工されるのか? 次回はその「加工」の分類についてお話し申し上げましょう。



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