後ろ半分は深めに包み込む!
向かって左がコブラヴァンプ、右がコインローファーです。コブラヴァンプはトップラインが通常のスリッポンに比べ明らかに深く(高く)、ゆえに履き心地もそれとは異なります。 |
前半分の造形にばかり眼が行きがちなコブラヴァンプですが、後ろ半分も何気ないながらも極めて予想外の、正に玄人受けする構造になっています。甲より後ろのくるぶしからかかとへと延びてゆくアッパーの最上辺を「トップライン」と呼ぶのですが、これが他のスリッポンに比べ、明らかに深い位置にあるのです。曲線でこそありませんが、レースアップやモンクストラップシューズとほぼ同様の高さでくるぶし周りを覆い、かかと周りに至っては、それらより5mmは深く包み込みます。
これが意味するのは、足との相性の良し悪しがはっきりと分かれやすいスリッポンの中にあって、この靴は例外的に合う足の許容範囲が広いと言うことです。つまり他のスリッポンのように足にピタッと合わせるのではなく、その迫力あるデザインのお陰で特に指周り横方向に余裕のある前半分とも相まって、敢えてややルースにクルッと包み込むのがコブラヴァンプの履かせ方。もともとカジュアルシューズでもありますし、なんと言うのか、フィッティングはかつてのアメリカ車のソファーのような寛容なものを理想形としているわけです。その意味でもちょっぴり心憎いクセ者!
前ページで「フローシャイムのものがあまりに、あまりに有名」と書いたのですが、どうやらその理由も、これら前後共に通常のスリッポンとは似て非なる設計思想やパターンにあるようです。日本の某大手靴メーカーの企画の方が以前仰っていたのですが、どんなに真似し尽くしてもオリジナル通りには絶対できない靴の典型が、このフローシャイムのコブラヴァンプなのだとか。確かに個人的にも、この靴の印象はスリッポン的と申すよりはむしろレースアップ、例えばデザートブーツの方がより近い気がします。
「I型」スーツにも、案外、いや当然似合う!
基本的にはカジュアルシューズですが、スムースレザーやコードヴァンのものなら、アメリカントラッドのスーツにも自然に合わせられてしまうのが、コブラヴァンプの底力です。特にコットン系のスーツとの相性は最高! |
アメリカ的要素の極めて濃いコブラヴァンプですし、基本的にはスリッポン=カジュアルシューズですから、装いもボタンダウンシャツやチノーズなどアメリカントラッド的なものと原則合わないはずないことは、皆さんも容易にご想像いただけるでしょう。例えば夏場には「プルオーバーのボタンダウンシャツ」や「ダークマドラスのバミューダショーツ」などと一緒に、是非とも素足で履いていただきたい。また冬ですと当然ながら、綿のステンカラーコートやツイードジャケットなどとの相性も抜群!
それにも増して嵌ってしまうのが、アメリカントラッドを代表するスーツスタイルであるNo.1モデル、日本では「I型(いちがた)」と呼ばれるものとのコーディネートです。誇張のないナチュラルショルダー・シングル3ボタン段返り仕様のジャケットは、胸ダーツを取らないことで胴回りを必要以上には絞り込まないものの、トラウザーズ(パンツ)はプレーンフロント(ノータック)とすることで全体的には比較的細身に仕上げる「I型」。その素朴でかつ無骨な風貌は、コブラヴァンプの「ぶっきらぼうさ」とも見事に一致し、黒や茶系のスムースレザーやコードヴァンのものなら、スリッポンでありながらこの種のスーツに特段の違和感もなく合わせられてしまうのです。
中でも特にお勧めなのが、上の写真のようなコットンを主素材に用いたI型スーツとの組み合わせです。ギャバジン・ポプリン・コードレーン・シアサッカー…… この種の主に春夏向けの素材でできたI型スーツに、例えばアメトラお約束の外羽根式プレーントウやロングウィングチップを履いてももちろん大正解なのですが、どうしても下に重目の見栄えになってしまいがち。そんな時こそ「クセ者」スリッポンであるコブラヴァンプの出番です。綿素材が持つ軽快さとI型スーツが持つ素朴な雰囲気双方を、その履き心地と同じく寛大かつ勇壮に受け止めてくれますよ!
かつてはカーフやコードヴァンそれにスエードのみならず、アッパーに千鳥格子や市松模様のプリントものも存在したことがある本家本元・フローシャイムのコブラヴァンプは、1990年代末期に一旦生産を終了してしまいました。が、アメトラ再評価の好影響を受け、2007年秋にとある大手セレクトショップも絡んで日本向け限定で目出度く復刻と相成りました。生産国はもはやアメリカではなくインド、足囲は3Eのみ、またアッパーの素材も牛のガラスカーフのみでの展開となりましたが、全体的な印象に往時のDNAがしっかり残っていたことに、ホッと一安心しました。一発限りの復刻に終わらせず、今後もアッパーの素材やウィズのバリエーションをちょっとでも増やして欲しい…… この靴の「クセ」が少しでも理解できてしまうと、そう願わずにはいられません。
(筆者註:2008年秋冬のモデルからは足囲がDに変更になっています)
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