男の靴・スニーカー/カジュアルシューズ

球種豊富な中継ぎの要、タッセルスリッポン(2ページ目)

今回の「メンズシューズ基礎徹底講座」は、タッセルスリッポンを採り上げます。この靴は1990年頃を境に注目を浴びなくなってしまいましたが、一旦使い方を知ってしまうと、その器用さゆえ手放せなくなる存在です。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

スムースレザー以外も愉しめます!

POLOのタッセル
リザード(トカゲ)のアッパーを用いた、ポロのタッセルスリッポンです。共に故郷が同じアメリカだからでしょうか、1990年代以降どんなに世間での注目が集まらなくなっても、このブランドはこのスタイルを、決して見捨てはしませんでした。


元祖ビジネス・カジュアル兼用靴としての存在意義は、アッパーの素材選びに寛容性が高いことに、そのままつながります。例えば黒のスムースレザーを用いると、当然といえば当然なのですが、ビジネスシューズ的な側面が強調されてまいります。アメリカではちょっと前まで、この色のタッセルスリッポンを特に弁護士の方が好んで履いていたため、今日でも”Lawyer’s Shoe” なる別名があるほど。フットワーク良く難件を次々片付けてゆくイメージと、確かに重複しそうな……

一方茶系ではバーガンディ色、それもスムースレザー以上にコードヴァンのタッセルスリッポンが大変重宝な存在です。ビジネス向けのチャコールグレイ無地のスーツに似合うだけでなく、休日のジャケット&チノーズのような装いにも十分対応できる千両役者だからです。アメリカの高級紳士靴の代名詞ともいえるオールデンやアレン エドモンズが、この素材のこの靴を流行とは関係なくカタログに載せ続けているのは、単にアメリカ発祥の靴というプライドだけではなく、この多芸さを我々よりも遥かに深く理解しているからなのでしょう。

さらに面白いのは、クロコダイル(ワニ)や上の写真のようなリザード(トカゲ)などの、いわゆるエキゾチックレザーをアッパーに用いたもの。もちろんビジネスユースではあり得ませんが、カジュアルながらも思いっきり贅沢に装いたい時、これらのタッセルスリッポンは相当強力な援護射撃をしてくれます。紐靴や前回のイングリッシュローファーやフレンチローファーに仕上げたものより、同素材を用いても不思議なことに説得力が強まるのです。これが全く厭味なく毒々しさもなく似合うようになれば、あなたも真の大人の洒落者でしょう!


流行で履く靴では断じてない、「中継ぎ二番手」

英国製リーガルのタッセル
今は亡きリーガル ブリティッシュコレクションのブラックタッセルスリッポンです。グレンチェックや無地のグレイのスーツなどとの相性が結構良いので、サラリーマン時代から流行に関係なくフレキシブルに用いています。


オールデンにしろブルックス ブラザーズにしろ、この靴がアメリカ東海岸の発祥であることがわかれば、どうして1990年代以降注目が薄らいでしまったかは、小生の記事を読み続けてくれている人ならもうお解かりでしょう。そう、その頃から男性の装いの中心軸がアメリカではなく創造美優先のイタリア的なものにシフトしてしまい、この靴特有のプラグマティズム的な「中継ぎ投手感覚」に、あまり意識が向かわなくなってしまったからです。

実はこの「中継ぎ感」こそ、タッセルスリッポンがどのような服と合わせられるかを理解する重要な鍵になります。つまり、フォーマルウェア以外でなら原則何であっても、どこであっても登板可能なのですが、「その装いに一番ふさわしい靴」というのが常に別にあって、その靴がもしもの場合に備え、いつもスタンバイしてくれているような存在なわけです。だから長期出張などの際には大変便利! スーツケースに紐靴だけでなく黒かバーガンディのこれを一足入れておくと、硬軟双方の場面で何かと力を発揮してくれます。あと、いつもの装いにちょっと変化を付けたいような時にも、この靴が案外大きな役割を果たしてくれるのです。

為替レートがユーロ高かつドル安に振れているのも影響してか、2007年頃からアメリカントラッド的な装いに再び注目が集まっています。タッセルスリッポンも長い不遇の時代に漸く終止符を打てる環境が整いました。2008年の春夏では、結構多くのお店でこのスタイルを前面に押し出してくることが予想されますが、どうか上記の「役割」を再認識もしくは新たに認識していただき、単に 「トレンド」の名の下で薄情に履き捨てなさらないよう、流行に関係なくこの靴を使い続けていた小生は、読者の皆様に希望する次第です。



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