そこで今回は大和ハウス工業株式会社の総合宣伝部を取材。その内容をもとに、マーケティングガイドの筆者がCMに秘められた「戦略」について解説します。
ダイワマンが戦わないヒーローになったワケ
まるで映画のようなCM(画像提供:大和ハウス工業)
担当者:もともとダイワマンは、2009~2011年までおよそ2年にわたって展開したシリーズCMです。マンション事業を訴求するためのキャラクターとして登場し、その後、戸建住宅商品xevoをテーマにしたダイワマンXやダイワウーマン、さらにはダイワニャンやダイワワンへと世界観を広げていきました。
当社CMの特徴は、ダイワマンのように強いインパクトをもつことが1つ。ですが、ここ数年は、コロナ禍等の影響もあり、そういったCMの制作は差し控えていました。しかし、少しずつアフターコロナを見据えた動きが加速しはじめ、いま一度、社会や取引先など関係者、そして社員などインナーへ向けても、当社の存在を強くアピールする広告素材が必要ではないかと考えました。
とはいえ、当初からダイワマンのseason2を制作すると決めていたわけではありません。数々の企画を検討、最終的に「過去のイメージを踏襲しつつ、新しくパワーアップして生まれ変わるダイワマンの姿にこそ、当社の理念や希望を託せる」と考え、制作に踏み切りました。
――西島さんを起用した理由は?
担当者:ダイワマンは、世の中の人の暮らしに寄り添いたいと考える大和ハウス工業の象徴です。戦うのではなく、そばで寄り添い見守るヒーローのイメージは、そこから生まれています。そんな全てを包み込むような器の大きさを持っている人物として、西島秀俊さん以外考えられませんでした。西島さんは「ダイワマンになれてとても光栄ですし、ダイワスーツもカッコいいので個人的にほしい」とおっしゃってました。
――ダイワスーツデザインの秘密を教えてください
担当者:season1のダイワマンより、パワーアップして帰ってきたことが分かることが命題。また、ダイワマンが自由に動けるように、スーツの可動域を考えて作っていくことが重要でした。ダイワスーツのデザインから制作までには、約2ヶ月かかっています。
制作は、監督のラフデザインからCGディレクターが3Dデザインをおこし、各部パーツを3Dプリンターで約40個のパーツを書き出すことからスタート。それを元に型を作り、ウレタン樹脂を入れて、固めてできたパーツを着色して、ダイワスーツが完成です。パーツは複雑に分かれているため、3人がかりで着用のお手伝いをしております。
西島さんと市原さんは演技も息ぴったり。(画像提供:大和ハウス工業)
担当者:「ここまで大げさに火花を散らすキックボードはないだろう」とユーモアを込めたダイワモービルや、過去作のダイワマンのスーツが登場しているのがポイント。また、西島さんと市原隼人さんの掛け合いや距離の近さ、津田寛治さん演じる執事の所作や含みある笑みなども必見です。
――CMの反響は?
担当者:CMをご覧いただいた多くの方から、ポジティブな反響をいただいております。「かっこいい」「クオリティがすごい」というコメントが多く、さらには「映画化してほしい」とまで言っていただきました。また前作を覚えてくださっている方から「ダイワマンが復活してうれしい」とのありがたいお声も。今後も大和ハウス工業の事業の多様性や、その事業についての思いを込めていきたいです。
競争が激化する住宅業界のピンチとチャンス
なぜ、いま住宅業界においてインパクトの強いCMが求められているのでしょうか。日本の住宅着工件数は、少子高齢化の影響で世帯数が減少し、ここ数年ピーク時のおよそ半分、年間80万戸から90万戸の間で推移しています。一方、リモートワークなど自宅で仕事をする人が増え、特に若い世代で都心部のマンションから郊外の一戸建てへ移り住むという流れは加速しています。また、今後スマートハウスなどの付加価値の高い住宅の需要が高まってくれば、まだまだ業界規模の拡大が見込め、住宅業界にとっては大きなチャンスが到来してくるといえるでしょう。
さらに住宅業界は、ヤマダ電機など異業種からの新規参入や、既存企業の合併などで再編され、今後ますます競争が激化していくことが見込まれます。そんなマーケットで存在感を示し、シェアを拡大していくためにインパクトの強いプロモーション戦略が重要であることは明らかです。
住宅は多くの購入者にとって人生最大の買い物。また、何十年と付き合うことになるということを踏まえれば、ハウスメーカーには信用や信頼が求められると言えます。そのため、CMでは記憶に残ると同時に安心や安全、信頼といったイメージを植え付けることができるかが、成功の鍵を握るといえるでしょう。
満を持して続編が公開されたダイワマンのCM
ダイワマンのCMは、役所広司さんを主役に抜てきしたのが始まり。その後、唐沢寿明さんのダイワマンXや黒木メイサさんのダイワウーマンなどのスピンオフも好評を博してきました。今回のseason2は、主演の西島さんを始めとした豪華俳優陣をそろえ、まるで映画のような仕上がり。Episode1では、オープニングからハリウッドのSF映画を想起させるような高いクオリティで見る者の度肝を抜き、「何のCMだろう?」と強いインパクトで視聴者の記憶に深く刻まれるに違いありません。
現在、HPなどでEpisode1から4までが公開されていますが、「次はどうなるんだろう?」と今後のストーリー展開が気になる方も多いのでは。いわゆるティザー広告という手法ですが、人々の心にダイワマンをさらに印象付けるのに一役買っています。
また、ダイワマンの戦わずに守るという設定は、大和ハウス工業ならばさまざまな危険から守ってくれるという安心感を与えてくれます。season1から10年以上。初代ダイワマンを見て育った人々が仕事や家庭を持ち、住宅購入を検討する際に新作を見て候補にすることもあるでしょう。CMが続けば続くほど、住まいはもちろん多岐にわたる事業ブランド全体の定着や信用の獲得につながるのでは。