危機遺産全リスト

トンブクトゥのサンコーレ・モスク

2012年にイスラム原理主義組織によって一部破壊されたマリの世界遺産「トンブクトゥ」のサンコーレ・モスク

危機遺産リスト掲載の全54件(2017年7月現在)の概要を紹介する。世界遺産名に続くのは、国名、世界遺産登録年(拡大年)、登録基準、危機遺産リスト登録年。

<ヨーロッパ>

■コソボの中世遺跡群
セルビア、2004年、文化遺産(ii)(iv)、2006年
コソボは国連の暫定統治機構が展開するセルビア共和国内で事実上独立した状況にあり、日本も独立を承認している。しかしセルビアは独立を容認しておらず、体系的な保全が難しいことから登録された。

■海商都市リヴァプール
イギリス、2004年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、2012年
数兆円規模の港湾再開発計画が持ち上がり、世界遺産と周辺の歴史的景観に不可逆的な影響を与えるとして危機遺産リスト入りとなった。経済的な影響も大きいことから住民の意見も割れており、予断を許さない。

■ウィーン歴史地区
オーストリア、2001年、文化遺産(ii)(iv)(vi)、2017年
周辺で再開発計画が進められており、特にアイスステート・リンクやホテルを含む複合ビルがこれまでの高さ制限を超えることから歴史的都市景観に悪影響を与えるとしてリストに加えられた。

<北中南米>

■チャンチャン遺跡地帯
ペルー、1986年、文化遺産(i)(iii)、1986年
エルニーニョ現象による降水量増加や温暖化による河川や地下水の水量増加によって、日干しレンガや土壁が溶け出している。排水設備の整備や修復活動の拡充が図られている。

■ハンバーストーンとサンタ・ラウラ硝石工場群
チリ、2005年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、2005年
地震による被害や、建築素材の盗難・破壊行為、塩害による腐食や構造上の脆弱性が指摘されている。

■コロとその港
ベネズエラ、1993年、文化遺産(iv)(v)、2005年
2004年11月~2005年2月にかけての豪雨による遺産破壊と、新しい建築物の建設による景観や価値の破壊、適切な管理・保護の計画・体制の不備が懸念されている。

■ベリーズのバリアリーフ保護区
ベリーズ、1996年、自然遺産(vii)(ix)(x)、2009年
マングローブ林の伐採が進み、また観光開発が過度に進んでいるとして危機遺産リストに掲載された。

■エバーグレーズ国立公園
アメリカ、1979年、自然遺産(viii)(ix)(x)、2010年
2007年に一旦リストから外されたが、河川の流入量は60%も減り、水の富栄養化等で湿地や河川の環境は悪化。アメリカは自ら危機遺産リスト入りを提案した。

■リオ・プラタノ生物圏保護区
ホンジュラス、1982年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x)、2011年
1996年に一度危機遺産リスト入りし、2007年にリストから削除されていたが、世界遺産登録地における違法な伐採や乱獲・密猟、土地の不法占拠、麻薬組織の暗躍などからホンジュラス政府の要請でふたたび危機遺産となった。

■パナマのカリブ海沿岸の要塞群:ポルトベロとサン・ロレンソ
パナマ、1980年、文化遺産(i)(iv)、2012年
城壁や砲台などの資産は補強が必要で、風雨の浸食も進んでおり、何より10年以上前から警告しているにもかかわらず十分な保護計画が進んでいないことからリスト入りとなった。

■ポトシ市街
ボリビア、1987年、文化遺産(ii)(iv)(vi)、2014年
坑道は劣化もあって落盤・崩落の危機に直面しており、細々と続く採掘によって崩壊が促進され、環境破壊も懸念されている。また、関連法の整備も不十分であることから危機遺産となった。

<アジア>

■エルサレム旧市街とその城壁
ヨルダン申請、1981年、文化遺産(ii)(iii)(vi)、1982年
所属国さえ書かれていない唯一の世界遺産。無秩序な都市化や急激な観光開発、複雑な政治状況、主体となる保護組織の不在によりリスト入り。貴重な宗教的・文化的建築物を守るための様々な活動が継続して行われている。

関連記事→聖地エルサレム

■古都ザビード
イエメン、1993年、文化遺産(ii)(iv)(vi)、2000年
都市化、ビルの増加、違法建築によりリスト入り。多数の住人が旧市街からビルへ移動するなど、古都の保全環境が破壊され、景観が失われつつある。

■ジャムのミナレットと考古遺跡群
アフガニスタン、2002年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、2002年
損傷や盗掘、周辺への道路建設、保護体制の不備などによりリスト入り。現地民の通路確保や保護体制の整備が求められている。

■バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群
アフガニスタン、2003年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi)、2003年
仏像の崩壊や壁画の状態悪化、略奪や盗掘などによりリスト入り。2001年3月、タリバンにより2体の仏像が破壊された事件は世界的なニュースになった。

■アッシュール(カラット・シェルカット)
イラク、2003年、文化遺産(iii)(iv)、2003年
チグリス川における大規模なダム開発計画による水没の危機、適切な保護の欠如が指摘されている。世界遺産登録と同時に危機遺産リストに掲載された。

■都市遺跡サーマッラー
イラク、2007年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、2007年
2003年のイラク戦争の影響から、世界遺産登録と同時に危機遺産リスト入り。テロによる遺跡破壊や遺跡内での農作など、管理体制の不備が指摘されている。

■スマトラの熱帯雨林遺産
インドネシア、2004年、自然遺産(vii)(ix)(x)、2011年
違法な伐採や密猟、不法侵入による農地開拓が横行し、熱帯雨林を横切る道路の建築計画が立ち上がったことからリスト入りした。

■古都ダマスカス
シリア、1979年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi)、2013年
メソポタミア、エジプトをつなぐ「肥沃な三日月地帯」の要衝で5,000年の歴史を誇る。特にウマイヤ朝の首都として繁栄した。内戦の被害を受け、2013年にシリアの6件の世界遺産が同時に危機遺産リストに記載された。

■古代都市ボスラ
シリア、1980年、文化遺産(i)(iii)(vi)、2013年
3,000年以上の歴史を誇り、ナバテア、ローマ、イスラムの影響が残る古都ながら、やはりシリア内戦による破壊が懸念されている。

■パルミラの遺跡
シリア、1980年、文化遺産(i)(ii)(iv)、2013年
シリアの他の世界遺産と同様、内戦による影響からリスト入りした。遺跡の詳細は「関連記事」参照のこと。

関連記事→パルミラの遺跡/シリア

■古都アレッポ
シリア、1986年、文化遺産(iii)(iv)、2013年
シリア内戦の被害がもっとも大きな世界遺産で、2012年に数千年の歴史を誇るスーク(市場)の約1,000軒が焼失し、2013年にはグレート・モスクのミナレットが倒壊、アレッポ城は軍の駐屯地となっている。

関連記事→古都アレッポ/シリア

■クラック・デ・シュバリエとカラット・サラディン
シリア、2006年、文化遺産(ii)(iv)、2013年
ふたつの世界遺産周辺も戦地となっており、近隣への空爆や砲撃によりクラック・デ・シュバリエの城壁の一部破損が伝えられている。

関連記事→クラック・デ・シュバリエ/シリア

■シリア北部の古代村落群
シリア、2011年、文化遺産(iii)(iv)(v)、2013年
シリア北部の山岳地帯に残る1~10世紀にわたる村落跡。ローマ~ビザンツ~イスラム時代の遺跡が残るが、やはり内戦の影響が懸念されている。

■イエスの生誕地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路
パレスチナ、2012年、文化遺産(iv)(vi)、2012年
イスラエルとの抗争などによって教会の維持・補修が進まない現状から、2012年に世界遺産に緊急登録され、そのまま危機遺産リストに掲載された。

■オリーブとワインの土地パレスチナ ~南エルサレム、バティールの文化的景観
パレスチナ、文化遺産(iv)(v)、2014年
上記に続くパレスチナの緊急登録物件で、世界遺産登録と同時に危機遺産となった。理由はイスラエルの分離壁建設計画によるバティールの美しい文化的景観の破壊。

■サナア旧市街
イエメン、1986年、文化遺産(iv)(v)(vi) 、2015年
2014年9月にイスラム教シーア派の一派である武装勢力フーシ派がサナアを制圧したのに対し、スンニ派のサウジアラビアを中心に空爆を行っており、6月には世界遺産の旧市街が空爆を受けた。

■シバームの旧城壁都市
イエメン、1982年、文化遺産(iii)(iv)(v)、2015年
「最古の摩天楼」「砂漠のマンハッタン」の異名をとる美しい世界遺産だが、「サナア旧市街」と同様、シーア派とスンニ派、あるいはタリバンやISILといったの第三勢力との争いに巻き込まれている。

■ハトラ
イラク、1985年、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)、2015年
ローマ帝国に対してパルティアが築いた軍事要塞都市で、ローマ帝国最大版図を築いたトラヤヌス帝らの侵攻を退け、前線基地として活躍した。2015年3月、ISILによって遺跡が爆破され、大きく損傷した。

■シャフリサブス歴史地区
ウズベキスタン、2000年、文化遺産(iii)(iv)、2016年
シャフリサブスはティムールの出身地で、ティムールが築いた華麗な都市遺跡が残っているが、周辺にホテルをはじめとする近代的な建物が次々と建設され、世界遺産の景観に不可逆的な影響を与えつつあると懸念されている。

■レプティス・マグナの古代遺跡
リビア、1982年、文化遺産(i)(ii)(iii)、2016年
北アフリカにおけるローマ帝国の主要都市のひとつで華麗な遺跡が残っているが、2011年にカダフィ政権が倒れて以降、リビアは事実上の内戦状態に陥っており、十分な保護・保全体制がとられていない。

■サブラータの古代遺跡
リビア、1982年、文化遺産(iii)、2016年
古代ローマ以前、フェニキア人によって築かれた古代都市遺跡。リビアにおける状況は前出の「レプティス・マグナの古代遺跡」と同様で、2016年にリビアのすべての世界遺産がまとめて危機遺産リストに登録された。

■キレーネの古代遺跡
リビア、1982年、文化遺産(ii)(iii)(vi)、2016年
もともとは古代ギリシアの人々が入植したギリシア都市で、のちにローマ帝国の版図に入ってローマ風に建て替えられた。危機遺産リスト入りの理由は上に同じ。

■タドラット・アカクスのロックアート遺跡群
リビア、1985年、文化遺産(iii)、2016年
アルジェリア国境近くの砂漠地帯に位置する岩絵群で、キリンやゾウなどさまざまな動物が描かれており、かつてこの地に豊かな緑があったことを伝えている。リスト入りの理由は上に同じ。

■ガダーミスの旧市街
リビア、1986年、文化遺産(v)、2016年
砂漠の民トゥアレグ族が築いた美しいオアシス都市で、白い壁画のシンプルな家々の内部はマグレブ美術と呼ばれる装飾で彩られている。リスト入りの理由は上に同じ。

■ヘブロン/アル・ハリル旧市街
パレスチナ、2017年、文化遺産(ii)(iv)(vi)
こちらもパレスチナの緊急的登録推薦物件。エルサレムの南約30km、ヨルダン川西岸に位置する古都で、ユダヤ人支配域とパレスチナ人支配域がモザイク状に連なっており、国際監視団が展開している。

<オセアニア>

■東レンネル
ソロモン諸島、1998年、自然遺産(ix)、2013年
サンゴ礁が隆起して誕生した世界最大のサンゴ島で、テガノ湖は太平洋の島に存在する最大の湖。島を覆う熱帯雨林の伐採が生態系に影響を与えているため、政府に環境影響評価の提出を求めた。

■ナン・マトール:東ミクロネシアの祭祀遺跡
ミクロネシア、2016年、文化遺産(iii)(iv)(vi)、2016年
人工島の上に宮殿・寺院・墓・住居等が築かれているが、砂の堆積などによって水路が塞がれ、マングローブ林が遺跡を侵食するなどの被害が出ていることから、2016年に世界遺産リストと同時に危機遺産リストに登録された。

<アフリカ>

■ニンバ山厳正自然保護区
ギニア/コートジボワール、1981年、自然遺産(ix)(x)、1992年
鉱山開発、大規模な難民流入、密猟、森林焼失などによりリスト入り。紛争の悪化でコートジボワール側は政府でさえも管理できない状態にある。

■アイルとテネレの自然保護区群
ニジェール、1991年、自然遺産(vii)(ix)(x)、1992年
戦争による混乱と保護体制の不備からリスト入り。軍事衝突と市民暴動は沈静化しつつあるが、密猟や天然資源の不法採掘、土地の浸食が深刻化している。

■ヴィルンガ国立公園
コンゴ民主共和国、1979年、自然遺産(vii)(ix)(x)、1994年
ルワンダ内戦や終戦の波及、難民や軍の流入に伴う人口増加が指摘されている。それに伴って燃料や食料となる動植物の採取・密猟が激増した。

■ガランバ国立公園
コンゴ民主共和国、1980年、自然遺産(vii)(x)、1996年(再登録)
反政府勢力の不法駐留、難民流入、密猟、鉱山開発などによりリスト入り。1992年、絶滅の危機に瀕していたキタシロサイの保護を行って一度はリストから外されたものの、紛争の激化に伴い1996年に再登録。キタシロサイは10頭以下と言われて絶滅は不可避に近く、世界遺産リストからの抹消も示唆されている。

■オカピ野生生物保護区
コンゴ民主共和国、1996年、自然遺産(x)、1997年
1997年にコンゴ東部一帯に広がった紛争のため、難民流入、密猟、森林伐採、金鉱開発などが増えて登録。状況はカフジ - ビエガ国立公園と同じ。

■カフジ - ビエガ国立公園
コンゴ民主共和国、1980年、自然遺産(x)、1997年
戦争や内戦に伴う森林伐採や密猟、鉱山開発、難民流入によりリスト入り。難民ばかりでなく武装した軍隊の不法駐留が密猟や自然破壊を拡大している。

■マノヴォ - グンダ・サン・フローリス国立公園
中央アフリカ、1988年、自然遺産(ix)(x)、1997年
重武装したハンターによる密猟や非合法の放牧が自然環境を破壊。国外からの密猟者も多く、治安の悪化から開発も観光も中止されている。

■サロンガ国立公園
中央アフリカ、1984年、自然遺産(vii)(ix)、1999年(再登録)
シロサイ絶滅の危機を脱して1992年に一旦はリストから外されたが、紛争激化に伴って最前線と化し、1999年に再登録。コンゴの5つの世界遺産はすべて危機遺産となった。

■アブ・メナ
エジプト、1979年、文化遺産(iv)、2001年
農業用地の開発計画がもたらした劇的な水位上昇によって乾燥した土壌が軟化。周辺の多くの建築物が崩壊の危機にある。

■ニオコロ - コバ国立公園
セネガル、1981年、自然遺産(x)、2007年
密漁の増加とダム計画が進行中。公園の上流にダムが完成した場合、ガンビア川の洪水がなくなり、草原が消滅するなど、生態系への影響が懸念される。

■カスビのブガンダ歴代国王の墓
Tombs of Buganda Kings at Kasubi
ウガンダ、2001年、文化遺産(i)(iii)(iv)(vi)、2010年
2010年3月16日、ブガンダ王国の宮殿であり、ガンダ族の聖地となっていた王墓が焼失。13世紀から続くブガンダの貴重な建築であり、再建が望まれている。

■アツィナナナの雨林
マダガスカル、2007年、自然遺産(ix)(x)、2010年
木々の伐採やキツネザルの密猟が禁止されているにも関わらず対策が不十分で、違法な材木等が市場に出回ってしまった。

■トンブクトゥ
マリ、1988年、文化遺産(ii)(iv)(v)、2012年
2012年4月、アザワド解放民族運動MNLAとイスラム過激派組織アンサル・ディーンがマリ北部を制圧し、アザワド国の独立を宣言。5月にはアンサル・ディーンがトンブクトゥに侵入し、世界遺産登録の3つの墳墓を破壊した。

■アスキア墳墓
マリ、2004年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、2012年
事情はトンブクトゥと同じ。どちらもマリ政府がリスト入りを要請し、承認された。世界遺産委員会は、周辺国にこれらの遺産の文化財が流出しないよう監視を要請するなど、世界的な協力・支援を確認した。

■セルー・ゲーム・リザーブ
タンザニア、1982年、自然遺産(ix)(x)、2014年
密漁が横行しており、絶滅危惧種も含めた動物の数は急速に減り、種によっては90%も減少。UNESCOはタンザニア国内の密輸マーケットや輸入先なども訪れて調査を行っている。

■ジェンネ旧市街
マリ、1988年、文化遺産(iii)(iv)、2016年
大モスクをはじめ泥と木材で造られたスーダン・サヘル様式の建物を特徴とするが、風雨による浸食の被害を受けている一方で、都市化などによって適した建築素材が得られないことなどから保護・保全状況が悪化している。

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