ケルン大聖堂
世界遺産からの抹消も検討されたケルン大聖堂。
世界遺産は、一つひとつそれぞれが人類にとって「顕著な普遍的価値」があるものとされ、その保護が義務づけられている。ところが、世界にはいままさに崩壊の危機に直面している世界遺産がある。

何よりもまず守らなくてはならないこれらの物件は「危機にさらされている世界遺産リスト」に公表され、一刻も早い保護が求められている。世界遺産条約が人類のかけがえのない遺産を守ろうという活動である以上、危機遺産保護はその核となる運動だ。

そんな危機遺産と、加えて世界中の世界遺産を同時に襲う新しい危機を紹介しよう。

危機遺産リストってなんだ?

エルサレム
危機遺産のひとつに数えられているエルサレム旧市街。左がイスラム教の聖地・岩のドーム、右がユダヤ教の聖地・嘆きの壁。
世界遺産条約は、もともと1960年代のユネスコによるインターナショナル・キャンペーンが発展したものだ。ダム建設によって水没の危機にあったアブ・シンベルをはじめとするヌビア遺跡群を救済・移転するためにとられたものや、1983年に10年越しで完結したボロブドゥールの修復がその一例だ。

世界遺産は、すぐれた自然や文化財をただリストに登録して終わりというものではなく、それを永遠に保護するための条約だ。そのために世界遺産を各国に保守・管理させるだけでなく、特に危機的な物件に対してはそれらを特別にリストアップして、世界が一致団結して緊急援助を行うよう定めている。

世界遺産条約第11条(抜粋。ガイド訳)
世界遺産委員会は必要に応じ、世界遺産リスト記載の物件のうち、大規模な保存事業が必要で、本条約に基づいて援助が要請されているものを「危機にさらされている世界遺産リスト」として作成・公表する。


2009年7月時点でこの「危機にさらされている世界遺産リスト(以下、危機遺産リスト)」には32件が登録されている。登録後は世界遺産基金の活用や、技術スタッフの派遣、調査や保護計画の立案、実際の保護・修復作業などが行われることになる。

世界遺産の監視体制

カトマンズ
2007年6月に危機遺産リストから削除されたカトマンズの谷のマハーボディ。それまでは無制約なビル開発が稀有な景観と建築物を破壊すると懸念されていた。
最近ではケルン大聖堂やロンドン塔のように、「この状況をなんとかしなければ世界遺産から外す」というような少々強引とも思える決議がなされている。しかし世界遺産条約前文にはこう書かれている。「文化遺産及び自然遺産には顕著な重要性があり、人類全体の遺産として保護する必要がある」。世界遺産はその国だけのものではない。必要とあらば国を動かさなくてはならない。

そのおかげで、たとえばエジプトではギザのピラミッドの近くに道路を通す計画があったが、危機遺産リストへの掲載を検討されたことからこれを修正。ケルン大聖堂も近くにビルの建築計画が持ち上がったが、ケルン市はこれを撤回した。

危機遺産リストへの登録要請は、世界遺産が所属する国だけが行うわけではない。危機遺産の保護・回復が大切なのはもちろんだが、世界遺産を監視し合う体制を世界中に広げ、新たな危機遺産を生み出さないことが、何より大切だろう。ちなみに下記のユネスコのページには、世界遺産の危機を知らせるための電話番号やメール・アドレスが記載されている。

【関連サイト】
ユネスコの危機遺産のページ(英語)

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