ロンドンはいま蒸溜所ラッシュ
シップスミスの蒸溜室
ただし、ここまでくると喜んでいいのかどうか。70もあるからって、どうなの、とわたしは思ってしまう。違う意味で驚いてしまう。
スコッチのモルト蒸溜所は100以上もあるじゃないか、と思われるかもしれない。でもモルトウイスキーの場合、その多くがシェア90%以上のブレンデッドウイスキーのブレンドに貢献しているから成り立っているのである。
先駆者「シップスミス」の成功を見て、クラフトジンのブーム、ジン市場の広がりを予測し、ビジネスチャンスに乗じた人たちも少なからずいるのではなかろうか。ジンは年月のかかる樽熟成の工程もなく、早く製品化できるスピリッツであるから、長い時間をかけてつくりやボタニカルに大きな特長を抱かせるまでの探求をおこなわない限り、ウイスキーよりも事業展開はしやすい。
しかしながら前回記事でも述べたが、そこにほんとうの愛、思想、哲学はあるのか、と問いたい。製造現場が70あったとしてもストレートに似たものばかりではしょうがないし、変化球が多過ぎても受け入れられないだろう。急激な、過剰なブームによる市場拡大はいずれ淘汰を招く。
香味設計に時間をかけてジャパニーズの香味を湛えた[ROKU]のような個性あるブランドがロンドンからも生まれてくる可能性はあるだろう。多彩な香味世界が生まれる期待感がまったくない訳ではない。とはいえ、数が増え過ぎれば、結局は生き残りゲームになっちゃうのだ。
シップスミス2製品の明確な違い
シップスミスロンドンドライジン
「シップスミス」は立ち上げから着実に蒸溜設備を充実させ、いまでは可愛らしい銅製蒸溜器を3基揃えるまでになっている。味わいは2タイプ。
「シップスミス ロンドンドライジン」(700ml・41度・¥4,200税別希望小売価格)は正統派そのもの。これがドライジンだ、といった香味だ。
フローラルな華やかさのなかに牧草のようなスパイシーさがあり、レモンやオレンジの柑橘系のニュアンスも抱いている。ストレートで味わったら、まずはシンプルに「ジントニック」を味わっていただきたい。
「シップスミス V.J.O.P.」(700ml・57度・¥4,735税別希望小売価格)は、上述の「シップスミス ロンドンドライジン」の約3倍のジュニパーベリーを使用し、エクストラドライな鋭くエッジの効いた辛口の仕上がりになっている。57%という高いアルコール度数は、ジュニパーベリーの香味を際立たせるためである。
シップスミスV.J.O.P.
ストレートで味わえば、ダークチョコのような感覚にジュニパーベリーの香味が鋭く切れ込んでいる。独特の辛みに、歓喜するジンファンもいらっしゃるのではなかろうか。カクテルならドライマティーニをおすすめする。ドライベルモットとの比率は7対1くらいが面白い。ただ4対1くらいでもエッジは効いていて、わたしは好きである。
この2製品に[ROKU]を加えて、それぞれの個性を飲み比べてみるのも楽しい。そしてジンの香味世界はまだまだ広がっていくことは確かだ。
関連記事
クラフトとは何か/ウイスキーのクラフト感を見つめる六[ROKU]ジャパニーズクラフトジンの魅力
日本の四季香るクラフトジンROKU/おいしい飲み方
クラフトジンROKUを生む大阪工場クラフト蒸溜工房
オンドリのしっぽ87回「ムーンウォークなクラフトジン」シップスミス&ROKU
ブレンデッドウイスキーの魅力・私感1