メジャーブランドのクラフトマンシップ
ノブクリーク
ウイスキーにしても、とりあえず蒸溜所を立ち上げるとクラフトディスティラリーとして話題になる。ただし、いかに注目を浴びようともその段階ではまだゼロでしかない。樽熟成させ、製品として世に出してやっと1となる。樽熟成があるから、他の酒類のようにすぐには製品化できない悩ましさがある。
そこからは消費者にどう伝え、それがどう愛されるかで、やっと2となり3となっていく。早い話、いくら格好をつけても売れなくては駄目なのである。クラフトの言葉の響は心地いい。ただ限られたマニアにいくら愛されても、ビジネスとして成立しなければ消えて行くしかない。
そのなかで10を達成したといえる「角瓶」というウイスキーは天晴なのである。
メーカーズマーク
さらにバーボンでいえば「メーカーズマーク」。一般にとうもろこし、ライ麦、大麦麦芽を穀類原料とするなかで、配合比を見直しながら、パンを焼くという非科学的な方法で、スパイシーでドライなライ麦よりも小麦のほうがまろやかで口当たりがよいことから小麦を採用した(記事『メーカーズマーク/プレミアムバーボンの証』参照)。そして立ち上げ時から少量生産で世界品質を目指したのである。まさにザ・クラフト。そして世界的なブランドに成長した。
飲み手のために生まれたブレンデッド
ティーチャーズ ハイランドクリーム
ウィリアム・ティーチャーの開発時の想いは、グラスゴーの造船所で働く男たちや港湾労働者たちのために、しっかりとした品質を抱きながらも仕事帰りに酒場で気軽にポケットマネーで飲めるウイスキーを提供したい、というものだった。
それがグラスゴーの市民の酒へと成長し、やがて海外でも愛されるようになったのである。ティーチャーの開発時の姿勢は、クラフトマンシップそのものである。それが継承されて21世紀のいまがあるのだ。
いろいろと語ったが、たとえあなたが愛するウイスキーがクラフトとか匠の技などと謳っていなかったとしても、つくり手の想いは込められている。たしかに“旨けりゃ、いいじゃんか”ではある。でも、長く世の中に愛されているウイスキーであるならば、ときに慈しんで飲んでいただきたい。
そして差し出がましいけれど、つくり手側もブランドが長く愛されるよう努力をつづけていただきたいと願う。すべてが「角瓶」をはじめ、上記ブランドのようになれる訳ではないし、時代のなかで窮地に陥ることもあるだろう。でも体力があるならば名品はできる限り守っていただきたい。
わたしはかつて、ブレンデッドスコッチのブランド淘汰に出会った。いくつもの名品が消えた。あれほどの淋しさはもう経験したくない。
次回の記事はクラフトつながりで、クラフトジンを紹介する。(ボトル撮影/児玉晴希)
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ティーチャーズ/アードモアが中核の名ブレンデッド