ハイボールの呼び名誕生説はさまざまにある
ハイボールとは、なんだ?
前回記事では、「ジン・トニック」「スプリッツァー」「ブランデー&ソーダ」など酒をソーダ水で割った、古くからあり、いまも愛されつづけているカクテルについて語った。これらもハイボールとして括ることができる。
では、本題のウイスキー&ソーダをハイボールと呼び出したのはどういうきっかけだったのか。
「ブランデー&ソーダ」は19世紀イングランドの上流階級で愛されたカクテルなのに、ハイボールという呼ばれ方をしていない。また古いカクテルブックには、他のスピリッツとともにリキュールとソーダ水の組み合わせもハイボールの項目に収められてもいる。
ハイボールがウイスキーのひとつの飲み方として呼ばれはじめ、それが他のスピリッツやリキュールを炭酸飲料で割る飲み方にも派生していったのだろうか。正直に言えば、はっきりとわかってはいない。
よく語られているのが、アメリカ人が主張する大陸横断鉄道敷設時のハイボール誕生説。
実は鉄道による流通の発達をいち早く見抜いたのが長くアメリカンウイスキーをリードしてきたビーム家である。そのあたりのことは『ティーチャーズの歩みから探るブレンデッドの歴史5』で触れているので、そちらをご一読いただきたい。
東部のライウイスキーからはじまったアメリカのウイスキー産業だが、ケンタッキー州のバーボンウイスキーが伸張していくうえで鉄道は大きな役割をはたしている。では、アメリカで語られているハイボールとは。
ボール信号説と気球説
ビームハイボール
アメリカで鉄道が敷設され営業運行がはじまったのは1830年代。東部中心であり、1850年代に西はケンタッキー州を通じてミシシッピ川まで鉄路は延びた。
南北戦争後(1861−1865)に鉄道敷設ラッシュとなる。1869年に東海岸と西海岸を結ぶアメリカ大陸横断鉄道が開通。そこから1890年頃まで鉄道網が西へ南へと広がっていった。その敷設ラッシュ時にウイスキー&ソーダをハイボールと呼ぶようになったというものだ。ただし、さまざまに語られている。
ポールの先にボールをつけたものを信号機として使い、工事が遅れるとボールを高く引き上げて“急げ”という合図を送った。この信号をハイボールと呼んだ。
短い休憩時間しかない作業労働者は当初、ボールが上がればすぐに現場に戻れるようウイスキーを水で割って飲みやすくしていたのが、この飲み方をハイボールというようになり、いつしかソーダ水で割るようになり、作業に励んだ。
列車の進行を教えていた、という説もある。これも信号であり、ボールが高く上がると“運行が遅れているぞ、急げ”という合図だった。そこからこじつけられ、急いで簡単につくれる飲み物をハイボールと言うようになったというもの。
わたしはこの説がいちばん無理のないオチだと思っている。簡単につくれるカクテルとして、ウイスキー&ソーダが最もメジャーになり、そこからウイスキーハイボールが定着したのではないか、という読みである。
でも、もうひとつある。鉄道敷設工事妨害するインディアンの襲撃を知らせるために気球を上げていた。開通後の祝賀パーティーで、無事開通したのは気球(ハイボール)のおかげとして、供されたのがウイスキーのソーダ水割りだったというものだ。
さてこの鉄道説にふさわしいハイボールは、やはりアメリカンウイスキーのソーダ割りだ。バーボンウイスキー「ジムビーム」をソーダ水で割ろう。さあ、「ビームハイボール」をどうぞ。
次回は、イギリスのゴルフ場説やその他の誕生説について紹介する。(ウイスキーハイボールの歴史3へ)
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