不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

不動産の使用貸借とは?土地の借地権、相続税など詳しく解説

土地などを「使用貸借」によって使うケースも少なからずあります。使用貸借とはいったい何なのか、固定資産税はどうなるのか、契約書は必要か、相続の際にはどうなるのか、注意すべき点は何かなど、基本的なポイントを知っておきましょう。

執筆者:平野 雅之

使用貸借とは?使用貸借の重要ポイントを押さえて解説

不動産の使用貸借とは?土地の借地権、相続税など詳しく解説

不動産の使用貸借とは?土地の借地権、相続税など詳しく解説


「使用貸借」という言葉は日常生活のなかであまり聞き慣れないかもしれませんが、住宅を建てたり借りたりするときなど、これに該当するケースも少なくありません。使用貸借とはいったいどのようなものなのか、その基本的なポイントを知っておくようにしましょう。
   

使用貸借とは?

不動産の使用貸借とは?土地の借地権、相続税など詳しく解説

親の土地に子が家を建てるとき、土地は使用貸借のことが多い


他人から物を借りるときには「賃貸借」と「使用貸借」があります。レンタルDVDやレンタカーなどを「お金を払って」借りる場合は賃貸借、友だちから本や雑誌、DVD、傘などを「タダで」借りる場合は使用貸借です。

つまり、有償か無償かによって「賃貸借」と「使用貸借」に分かれるのですが、いずれも「貸し借り」ですから、使い終わったら返すことが前提となります。もし返さないのであれば、譲渡あるいは贈与といった話になるでしょう。

不動産の場合で考えると、権利金や地代を支払わないままで親の土地を借りて自分の家を建てるケース、親が所有しているマンションにタダで住むケースなどが比較的多いでしょう。

親子間でなくても、夫婦間、兄弟姉妹間、親族間などで使用貸借がされることは珍しくありません。

ちなみに民法第593条では使用貸借を次のように定義しています。

(現行法)「使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還することを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる」

(改正法)「使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる」(2020年頃施行予定)

現行法では「物を受け取ること」によって成立する「要物契約」ですが、改正法は「引き渡しと返還を双方が約すること」によって成立する「諾成契約」に改められます。

社宅など、法人と個人間の使用貸借の場合もありますから、実態に合わせ、契約の成立を広く認めようとする改正でしょう。

 

使用貸借と権利金、地代の関係は?

親などから土地や建物を無償で借りて、使い終わったら返すのが使用貸借ですが、とくに土地の場合は高額なだけに、いろいろと難しい問題も生じます。

第三者から土地を借りるのであれば、通常は初めに相応の権利金を支払い、さらに契約にもとづく地代を毎月(または毎年)支払うことになります。これが一般的な「借地権」です。

それに対して使用貸借の場合はどうでしょうか。まず、使用貸借を始めるのにあたり権利金を支払うことは考えられません。権利金などの授受があれば使用貸借にはならず、もし権利金を支払うなら、親子間などであっても借地契約を交わして正式な「借地権」にすればよいでしょう。

その一方で、高額になりがちな権利金は無理でも地代程度なら支払ってあげたいと考えるケースは少なからずありそうです。ところが、相応の地代を支払ったときには「賃貸借」とみなされ、権利金を支払っていない分の「利益を得た」として贈与税の課税対象になってしまいます。

その地代が、おおむね土地の固定資産税都市計画税に相当する金額以内であれば、そのまま使用貸借として取り扱われますが、その金額を超える地代だと厄介なことになりかねません。

つまり、使用貸借の場合は権利金も地代も支払わず、無償(または税額相当以内の負担)で使用することが原則です。ただし、土地を使用するために必要な経費などは借主の負担とすることが一般的です。

 

使用貸借の契約書はどうする? 契約の解除は?

親などから無償で土地を借りるときに、書面による「使用貸借契約書」を交わすことが要件ではなく、口頭の約束でも有効です。しかし、たとえ親子間、親族間であれ、後々のトラブルを避けるためには「使用貸借契約書」を作成するほうが望ましいでしょう。

また、前述のとおり民法の改正では「双方が約する」ことによって使用貸借契約が成立することになりますので、今後は契約書の作成が重視される場面も増えそうです。

使用貸借契約書では、契約期間や使用目的、費用負担、禁止事項(譲渡の禁止など)を明確にしておきます。

また、使用貸借は契約期間の満了や合意解除、契約違反による解除のほか、借主の死亡によって終了します。

 

使用貸借の権利には法的な保護がない

一般的な借地権の場合には「借地借家法」によって権利が保護されるのに対し、使用貸借の場合はその適用がありません。土地の借主が自分の費用で家を建てれば、当然ながら建物部分については権利を主張できるものの、敷地の権利には法的な保護がないのです。

権利が弱いために、土地の「使用権」に関する財産上の評価額は「ゼロ」として取り扱われます(1973年以前から続いている使用貸借の場合は取り扱いが異なる場合もあります)。

したがって、対象の土地と自分の建物を一緒に「中古一戸建て住宅」として第三者に売却したときでも、その土地代金はすべて地主(親など)の取り分であり、土地の借主が受け取りを主張することはできません。

もっとも、使用貸借の大半は親子間、親族間などのため何らかの配慮はあるでしょうが……。

 

相続の際には要注意

使用貸借では、相続の際における土地の評価などにも注意しなければなりません。

使用貸借の対象となっている土地は、借地権における貸宅地としての減額や、借主がアパートなどを建てていたとしても貸家建付地の減額などは適用されず、更地とみなして評価されます。借地権評価と混同してしまうと、想定外の相続税がかかることもあるでしょう。

さらに、兄弟姉妹のうち誰かが、親の土地やマンションの1室、実家とは別の居宅などを使用貸借しているとき、「自分には権利があるはずだ」という思い違いからトラブルに発展することも少なからずあるようです。

また、親から土地を借りた本人は使用貸借と認識していたのにもかかわらず、その妻が誤解していたために夫婦間の争いになったケースもあるとか。

これから使用貸借を始めようとするときには、その権利関係をよく確認しておくとともに、兄弟姉妹がいるときにはしっかりとその理解を得ておくことも大切です。


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