2017(平成29)年度・宅建試験「出題が予想される判例」
最高裁判所での判断は、一審・二審と裁判所の意見が割れるほど重要な不動産取引に関する争点で審査されたものばかりです。これから不動産取引法務の専門家となる宅建試験の受験者は当然に知っておかなければならない知識です。したがって、最低でも過去5年分くらいの最高裁判例は事実と結論をしっかりと勉強しておかなければなりません。
この記事を活用して最新の判例をカバーしておきましょう。
自筆証書遺言に押印せずに花押を書いたら無効?
自筆証書遺言にいわゆる花押を書くことは、民法968条1項の押印の要件を満たさないとした事例です(最判 平成28年6月3日 民集第70巻5号1263頁)。【事実の概要】
Aは、平成15年5月6日付けで、自筆証書遺言書を作成しました。本件遺言書にはいわゆる花押が書かれていたが、印章による押印がありませんでした。
【争点】
Aは、本件遺言書に、印章による押印をせず、花押を書いていたことから、花押を書くことが民法968条1項の押印の要件を満たすか否かが争われました。
民法968条1項
【原審の判断】福岡高判平成26年10月23日「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」
原審の福岡高裁は、花押による遺言書を有効と判断しました。その理由は、花押は、文書の作成の真正を担保する役割を担い、印章としての役割も認められており、花押を用いることによって遺言者の同一性及び真意の確保が妨げられるとはいえないからとしました。
【最高裁判所の判断】
最高裁は、原審である福岡高裁の判断を否定し、次のように判示しました。
花押を書くことは、印章による押印とは異なるから、民法968条1項の押印の要件を満たすものであると直ちにいうことはできない。
そして、民法968条1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書のほかに、押印をも要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ、我が国において、印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。
以上によれば、花押を書くことは、印章による押印と同視することはできず、民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。
【コメント】
上記の判例以外にも次のような判例があります。
- 押印について、遺言者の署名が存するが押印を欠く英文の自筆遺言証書につき、遺言者が帰化した人であることなどの事情を考え、有効とした事例(最判昭和49年12月24日 民集28巻10号2152頁)。
- 遺言書本文を入れた封筒の封じ目にされた押印でも有効とした事例(最判平成6年6月24日 家裁月報47巻3号60頁)。
- 指印による自筆証書遺言も有効する事例(最判平成1年2月16日 民集43巻2号45頁)。
遺言書自体に押印がなくても、さらには氏名すらなくても有効とする判例の流れから、本事案で高等裁判所が花押による遺言も有効であると判断することにも一理あると思われます。特に、英文での遺言の上記判例では、帰化人であるという特殊事項を考慮して押印がなくても有効である旨の判断したわけであり、本事案の花押についても、地域性などの特殊性を考慮すれば有効と判断してもよかったのではないかとも言えます。
【予想問題】
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならず、当該印を押さなかった場合は常に効力を有しない。
⇒ ×
押印していなくても有効とする判例があります。
仮差押えの時点で土地と建物が同一人所有ならば法定地上権が成立する?
地上建物に対する仮差押えが本執行に移行して強制競売手続がされた場合において、土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたが、その後に土地が第三者に譲渡された結果、その強制競売手続における差押えの時点では同一の所有者に属していなかったときの法定地上権の成否が問題となった事例です(最判平成28年12月1日 民集第70巻8号1793頁)【事実の概要】
Aは、838番6の土地と838番8の土地及びこれらの土地上にある建物を所有していました。
平成14年5月23日、本件建物と838番8の土地につき、仮差押えがされました。
平成19年3月26日、Aは、838番6の土地をXに贈与しました。
平成20年2月20日、本件建物及び838番8の土地につき、強制競売手続の開始決定による差押えがされました。本件強制競売手続は、本件仮差押えが本執行に移行してされたものです。そして、Yは、本件強制競売手続における売却により、本件建物及び838番8の土地を買い受けてその所有権を取得しました。Yは、平成21年7月29日から、本件建物、838番8の土地及び838番6の土地を占有していました。
【争 点】
本件は、838番6の土地の所有者であるXが、これを占有するYに対し、所有権に基づき、上記土地の一部の明渡し及びYが占有を開始した平成21年7月29日から上記明渡し済みまでの賃料相当損害金の支払を求めるなどしている事案です。
本件仮差押えがされた時点で、本件建物とその敷地の一部である838番6の土地が同一の所有者に属していたことによって、本件建物につき法定地上権が成立するか否かが争われました。
地上建物に対する仮差押えが本執行に移行して強制競売手続がされた場合において,土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたが,その後に土地が第三者に譲渡された結果,当該強制競売手続における差押えの時点では同一の所有者に属していなかったときの法定地上権の成否 最判平成28年12月1日
【原審の判断】福岡高判平成26年11月21日
原審は、本件建物につき法定地上権の成立を否定し、Xの土地明渡請求を認容し、賃料相当損害金の支払請求を一部認容すべきものとしました。
【最高裁判所の判断】
原審の判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
地上建物に仮差押えがされ、その後、当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において、土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたときは、その後に土地が第三者に譲渡された結果、当該強制競売手続における差押えの時点では土地及び地上建物が同一の所有者に属していなかったとしても、法定地上権が成立するというべきである。
【コメント】
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなされます(民法388条 法定地上権)。また、土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合において、その土地又は建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至ったときも、その建物について、地上権が設定されたものとみなされます(民事執行法81条)。
なぜ、土地と建物が同一の所有者に属する場合に限定されているのでしょうか。
それは、民法上、土地と建物が同じ所有者の場合は、そこに借地権や地上権などの使用権を設定できないからです(民法179条 混同)。
本件判例は、地上建物の仮差押えの時点で土地及び地上建物が同一の所有者に属していた場合も、その仮差押えの時点では土地の使用権を設定することができず、その後に土地が第三者に譲渡されたときにも地上建物につき土地の使用権が設定されるとは限らないのであって、この場合にその仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続により買受人が取得した地上建物につき法定地上権を成立させるものとすることは、上記民事執行法81条の趣旨に沿うものであるとしています。
【予想問題】
地上建物に仮差押えがされ、その後、当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において、土地及び地上建物が当該仮差押え及び本執行の時点で同一の所有者に属していないときであっても、法定地上権が成立する。
⇒ ×
仮差押え及び本執行の時点で同一の所有者に属していない場合には法定地上権は成立しません。
亡くなった方の預金は金銭と同じ扱い?
共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は遺産分割の対象となるかが問題となった事案です(最大決平成28年12月19日 民集 第70巻8号2121頁)。【事実の概要】
Aは、平成24年3月に死亡し、その法定相続人は、X(Aの弟であり、Aの養子)とY(Aの妹)でした。Aは、不動産(価額は合計258万1995円)のほかに、預貯金債権を有していました。
【争 点】
預金債権は遺産分割の対象となるか。
【原審の判断】大阪高判平成27年3月24日
本件預貯金は、相続開始と同時に当然に相続人が相続分に応じて分割取得し、相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象とならないなどとした上で、抗告人が本件不動産を取得すべきものとしました。
【最高裁判所の判断】
共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。
最高裁平成15年(受)第670号同16年4月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号13頁その他上記見解と異なる当裁判所の判例は、いずれも変更すべきである。
【コメント】
相続財産は共同相続人の共有となります。しかし、この共有については古くからその法的性質について解釈上の争いがありました。すなわち、各共同相続人は相続財産を構成する個々の財産上に物権的な持分権を有しこの持分権を遺産分割前も単独で自由に処分できるとする見解(共有説)と、各共同相続人は相続財産全体に対し抽象的な持分を有しこの相続分の処分はできるが相続財産を構成する個別財産上には物権的な持分権はないとされ、また、債権債務も遺産分割までは不可分的に全相続人に帰属し、債務については相続財産がまず責任を負うとする見解(合有説)の対立です。預金債権等の場合、前者からは、遺産分割を待たずに各共同相続人の相続分に応じて当然に分割され、後者からは、分割されずに相続人全員に合有的に帰属し(遺産分割の対象となる)、全員が共同しなければ債務者に請求できないことになります。
これまでの判例は共有説を採用していましたが、この最高裁大法廷による決定で判例法理が変更され、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となると解釈し、合有説を採用するに至りました。同決定では、預金債権は金銭と同様に遺産分割の調整に活用し得る性質があり、金銭と同じく遺産分割の対象とすべきであるとか、預金口座は給料等の入金や光熱費の引き落とし等その額は解約するまで確定しないことから遺産分割前に自らの相続分について払い戻しが可能であるとすると計算が煩雑になり調整も困難となる等を、判例変更の理由としています。
【予想問題】
相続財産である預金返還請求権などの金銭債権は、遺産分割協議が成立するまでは、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、遺産分割の対象とならない。
⇒ ×
共同相続された普通預金債権、通常貯金債権および定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となります。
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