平成28年度宅建試験で出題が予想される判例

宅建試験における民法及び借地借家法の問題については、新しい判例からの出題があります。

最高裁判所での判断は、一審・二審と裁判所の意見が割れるほど重要な不動産取引に関する争点で審査されたものばかりです。これから不動産取引法務の専門家となる宅建試験の受験者は当然に知っておかなければならない知識です。したがって、最低でも過去5年分くらいの最高裁判例は事実と結論をしっかりと勉強しておかなければなりません。

この記事を活用して最新の判例をカバーしておきましょう。
平成28年度宅建士試験用の出題予想判例

平成27年6月17日の最高裁判所判例の写真


暴力団とは知らずに保証した場合の保証契約は無効?

信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結されて融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において、信用保証協会の保証契約の意思表示に要素の錯誤がないとされた事例です(最判平成28年1月12日 民集 第70巻1号1頁


【事実の概要】
主債務者が反社会的勢力の場合、それを要素として動機の錯誤を主要できるかが問題となった判例。

平成28年1月12日の最高裁判所の判例


金融機関B(被上告人)は、A社から運転資金の融資の申込みを受け、信用保証協会C(上告人)に対して信用保証を依頼し、A社と信用保証協会Cとの間で保証委託契約を締結しました。
金融機関Bは、平成20年7月、同年9月及び平成22年8月、A社との間でそれぞれ金銭消費貸借契約を締結し、3000万円、2000万円及び3000万円の各貸付け(以下「本件各貸付け」という。)をしました。信用保証協会Cは、金融機関Bとの間で、本件各貸付けに基づくA社の債務を連帯して保証する旨の各契約(以下「本件各保証契約」という。)を締結しました。
なお、本件各保証契約において、契約締結後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合の取扱いについての定めは置かれていませんでした。
平成22年12月、A社の代表取締役が反社会的勢力の一員であることが判明しました。
平成23年3月、A社は本件各貸付けについて期限の利益を喪失しました。金融機関Bは、信用保証協会Cに対し本件各保証契約に基づき保証債務の履行を請求しました。
それに対して、信用保証協会Cは、このような場合には保証契約を締結しないにもかかわらず、そのことを知らずに同契約を締結したものであるから、同契約は要素の錯誤により無効であると主張ました。

【高等裁判所の判断】 東京高等裁判所平成26年3月12日

「主債務者が反社会的勢力である可能性は当事者間で想定されていて、そのことが後に判明した場合も信用保証協会Cにおいて保証債務を履行することが本件各保証契約の内容となっていたものであり、仮に信用保証協会Cの内心がこれと異なるものであったとしても、そのことは明示にも黙示にも金融機関Bに対して表示されていなかった。したがって、主債務者であるA社が上記当時から反社会的勢力であったからといって、信用保証協会Cの本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤があったとはいえない。」と判示し、C信用保証協会の主張を否定しました。

【最高裁判所の判断】

最高裁はまず大前提として、「信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し、金融機関において融資を実行したが、その後、主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には、信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる。意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして、動機は、たとえそれが表示されても、当事者の意思解釈上、それが法律行為の内容とされたものと認められない限り、表意者の意思表示に要素の錯誤はない」と旧判例を引き継ぐことを明言しました。

その上で以下の理由を示して結論を出しました。
・本件各保証契約の締結前にA社が反社会的勢力であることが判明していた場合には、これらが締結されることはなかったこと。
・保証契約において主債務者が反社会的勢力でないことはその主債務者に関する事情の一つに過ぎないこと。
・金融機関Bも信用保証協会Cもプロである以上、主債務者が反社会的勢力であることが事後的に判明する場合が生じることを想定でき、特約に定める等の対応を採ることも可能であったこと。
・上記特約がないということは、主債務者が反社会的勢力でないということについては、この点に誤認があったことが事後的に判明した場合に本件各保証契約の効力を否定することまでを前提とはしていなかったと解することができること。

以上の理由から、「A社が反社会的勢力でないことという信用保証協会Cの動機は、それが明示又は黙示に表示されていたとしても、当事者の意思解釈上、これが本件各保証契約の内容となっていたとは認められず、信用保証協会Cの本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤はない」と判示しました。

【ポイント】

本件において、高等裁判所は、動機が明示にも黙示にも金融機関Bに対して表示されていなかったので意思表示に要素の錯誤があったとはいえないと判断したのに対して、最高裁判所は、動機が明示又は黙示に表示されていたとしても意思表示に要素の錯誤はないと判断しました。結果は同じですが、Aが反社会的勢力であることについて、本件保証契約の要素となるのか否かで解釈が異なりました。
錯誤については宅建試験では頻出分野であり、動機の錯誤について黙示の表示であっても要素の錯誤とした平成元年の最高裁判決以来の重要な判例です。


【予想問題】

錯誤に関する次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び下記判決文によれば、誤っているものはどれか。
(判決文)
信用保証協会(本問では以下Cという。)と金融機関(本問では以下Bという。)との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者(本問では以下Aという。)が反社会的勢力であることが判明した場合において、上記保証契約の当事者がそれぞれの業務に照らし、上記の場合が生じ得ることを想定でき、その場合にCが保証債務を履行しない旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であったにもかかわらず、上記当事者間の信用保証に関する基本契約及び上記保証契約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないなど判示の事情の下では、Aが反社会的勢力でないことという信用保証協会の動機は、明示又は黙示に表示されていたとしても、当事者の意思解釈上、上記保証契約の内容となっていたとは認められず、Cの上記保証契約の意思表示に要素の錯誤はない。
  1. Aが反社会的勢力でないことというCの動機が明示に表示されていた場合、当事者の意思解釈上、保証契約の内容となっていたと認められ、Cの保証契約の意思表示に要素の錯誤があり無効であったといえる。
  2. CにおいてAが反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し、Bにおいて融資を実行した場合、その後、Aが反社会的勢力であることが判明したときは、Cの意思表示に動機の錯誤があるということができる。
  3. Aが誰であるかは保証契約の内容である保証債務の一要素となるものであるが、Aが反社会的勢力でないことはその主債務者に関する事情の一つであって、これが当然に同契約の内容となっているということはできない。
  4. CB間で締結された保証契約等に、主債務者が反社会的勢力であったときには保証契約の効力を否定する旨の定めが置かれていた場合において、Cが保証契約に基づくBからの保証債務の履行の請求を拒否できることまでは否定されていない。

解答:1
  1. × 問題文の判決では、「Aが反社会的勢力でないことという信用保証協会Cの動機は、それが明示又は黙示に表示されていたとしても、当事者の意思解釈上、これが本件各保証契約の内容となっていたとは認められず、信用保証協会Cの本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤はない」と判断しています。したがって、Cの動機が明示に表示されていたからといって、要素の錯誤となるわけではありません。
  2. 〇 問題文の判決では、「信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し、金融機関において融資を実行したが、その後、主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には、信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる」と判断しています。最高裁は、保証契約締結にあたり特約を定める等の措置を採り得たにもかかわらずそれをしなかったことに着目し、動機が表示されたとしても要素の錯誤とはならないと判断しているだけです。
  3. 〇 問題文の判決では、「保証契約は、主債務者がその債務を履行しない場合に保証人が保証債務を履行することを内容とするものであり、主債務者が誰であるかは同契約の内容である保証債務の一要素となるものであるが、主債務者が反社会的勢力でないことはその主債務者に関する事情の一つであって、これが当然に同契約の内容となっているということはできない」と判断しています。動機の錯誤として無効となるためには、要素の錯誤と同視されなければなりません。判決文では、Aが反社会的勢力であるかどうかは保証契約の要素の一つではあるがすべてではないとしております。だからこそ、それを表示したとしても当然に要素の錯誤とはならないという結論に至るわけです。
  4. 〇 問題文の判決では、「Bは融資を、Cは信用保証を行うことをそれぞれ業とする法人であるから、Aが反社会的勢力であることが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定でき、その場合にCが保証債務を履行しないこととするのであれば、その旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であった。それにもかかわらず、本件基本契約及び本件各保証契約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないことからすると、Aが反社会的勢力でないということについては、この点に誤認があったことが事後的に判明した場合に本件各保証契約の効力を否定することまでをB及びCの双方が前提としていたとはいえない」と判断しています。保証契約等にAが反社会的勢力であった場合の措置を定めた場合に、それに従うことまでも否定しているわけではありません。