免許失効から15年後に営業保証金の取戻請求は可能?

 宅地建物取引業法30条1項前段所定の事由が発生した場合において、同条2項本文所定の公告がされなかったときにおける営業保証金の取戻請求権の消滅時効の起算点が争点となった判例です(最判平成27年6月17日(行ヒ)第374号

【事実の概要】
宅地建物取引業法30条1項前段所定の事由が発生した場合において,同条2項本文所定の公告がされなかったときにおける営業保証金の取戻請求権の消滅時効の起算点が争点となった事案。

平成28年3月31日の最高裁判所判例


Aは、平成元年3月31日付けで、東京都知事から、宅建業法3条1項に基づき宅建業の免許を受け、同年6月13日付けで、東京法務局において、1000万円の営業保証金(本件保証金)を供託しました。その後、免許の有効期間は平成10年3月31日をもって満了し、Aは本件保証金につき取戻公告をせず、また、本件保証金に対して還付請求権が行使されることもありませんでした。平成25年9月20日になり、Aは供託原因消滅を理由として取戻請求を行いましたが、供託官は、同年10月1日付けで、Aに対し、本件取戻請求権の消滅時効が完成していることを理由に却下決定をしました。
そこで、Aは、東京法務局供託所を相手に、本件却下決定の取消し及び上記取戻請求に対する払渡認可決定の義務付けを求めて訴えました。

【原審の判断】東京高等裁判所 平成27年6月17日

高等裁判所は、「還付請求権が存在しない場合には、取戻事由が発生し、最短の公告期間である6か月が満了した時点で、営業保証金の取戻請求権の行使は法律上可能になると解されるのであり、その時から同請求権の消滅時効は進行する」と判断し、本件取戻請求権の消滅時効の起算点は、本件保証金の取戻事由が発生した平成10年4月1日から6か月が経過した時であり、本件取戻請求権の消滅時効が完成しているとしました。

【最高裁判所の判断】

最高裁判所は以下の理由により、高等裁判所の判断を否定しました。
「営業保証金及び取戻公告の制度趣旨等に照らすと、宅建業法30条2項の規定は、取戻請求をするに当たり、同項本文所定の取戻公告をすることを義務的なもの又は原則的なものとする趣旨ではなく、取戻公告をして取戻請求をするか、取戻公告をすることなく同項ただし書所定の期間の経過後に取戻請求をするかの選択を、宅建業者であった者等の自由な判断に委ねる趣旨であると解する」として、公告して取り戻すのか、公告しないで10年待って取り戻すのかは宅建業者側の自由選択であるとして、高等裁判所の判断を宅建業法30条2項の趣旨に反する判断であるとしました。
そして、「宅建業法30条1項前段所定の取戻事由が発生した場合において、取戻公告がされなかったときは、営業保証金の取戻請求権の消滅時効は、当該取戻事由が発生した時から10年を経過した時から進行するものと解する」と判示し、取戻事由が発生した平成10年4月1日から10年を経過した時から消滅時効が進行すると判断しました。

【コメント】

営業保証金の取戻しについて、最低6か月の公告をしてから取り戻すという方法を採った場合と、採らなかった場合とで、消滅時効の起算点が異なる旨を示したはじめての判決です。
宅建試験で毎年出題されている営業保証金と、2年に1度程度出題されている時効の両方に関連する重要判例です。消滅時効の起算点の問題として他の判例とあわせた問題が出題されると予想されます。

【予想問題】

消滅時効に関する次の1から4までの記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
  1. 債権又は所有権以外の財産権の消滅時効は、権利を行使することができる時から進行し、原則として10年間行使しないときに消滅する。
  2. 再売買の予約完結権の消滅時効は、権利の行使につき特に始期を定め、または停止条件を付したものでない以上、予約完結権の成立した時から進行する。
  3. 宅地建物取引業法第30条第1項前段所定の取戻事由が発生した場合において、取戻公告がされなかったときであっても、営業保証金の取戻請求権の消滅時効は、当該取戻事由が発生した時から6月を経過した時から進行する。
  4. 雇用者の安全配慮義務違反によりり患したじん肺によって死亡したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は,被害者がじん肺により通常の生活を営むことが困難となった時から進行する。

解答:2
  1. × 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行します(民法166条1項)。そして、債権又は所有権以外の財産権は20年間行使しないときに消滅します(民法167条2項)。
  2. 〇 再売買の予約完結権の消滅時効は、権利の行使につき特に始期を定め、または停止条件を付したものでない以上、予約完結権の成立した時から進行します( 最判昭和33年11月6日 民集 第12巻15号3284頁)。
  3. × 宅建業法30条1項前段所定の取戻事由が発生した場合において、取戻公告がされなかったときは、営業保証金の取戻請求権の消滅時効は、当該取戻事由が発生した時から10年を経過した時から進行します(最判平成27年6月17日(行ヒ)第374号)。
  4. × じん肺によって死亡した場合の損害については、死亡の時から損害賠償請求権の消滅時効が進行します(最判平成16年4月27日 平成13(受)1759)。