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バルヴェニー蒸溜所/古典ともいえるモルトづくり

前回記事で紹介したグレンフィディックの姉妹ディスティラーがバルヴェニー。両蒸溜所とも同じ敷地内にありながら、生まれるモルトウイスキーの香味は大きく異なる。今回はバルヴェニーの製法について紹介しよう。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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グレンフィディックと同じ敷地内にあるバルヴェニー

バルヴェニー蒸溜所は、前回記事で紹介したグレンフィディック蒸溜所と同じ敷地内にある。グレンフィディック創業から5年後の1892年に建設された。ウィリアム・グラントが姉妹ディスティラリーとして、新たな香味の実現のために誕生させた蒸溜所である。
MAP

©Satos


バルヴェニー蒸溜所

バルヴェニー蒸溜所

グレンフィディック蒸溜所同様、石造りの古色蒼然とした様子で佇んでいるが、より静かで控えめな存在といえる。ケルト語のバルヴェニーは“山の麓の集落”。蒸溜所名は1300年代に遡り、歴史に数多くの逸話を遺すバルヴェニー城近くにあることに由来する。時空を惑わす廃城の姿もザ・バルヴェニー蒸溜所の印象に静寂さを与えている。
また大きな規模を誇るグレンフィディック蒸溜所と隣接しているために規模が小さく感じられるようだが、しかしながらスコットランドのモルト蒸溜所の中でも年間生産量において高いランクに位置しつづけてもいる。

バルヴェニーの大麦畑

バルヴェニーの大麦畑

シングルモルトウイスキーの香味には、つくられる土地の気候、風土が色濃く反映されるとよく言われる。ところがバルヴェニーはグレンフィディックと同じ敷地内にありながら、ワインの世界でいうテロワール的な解説が入り込む余地がない。
グレンフィディック蒸溜所に関しては、前回記事『グレンフィディック蒸溜所とグラント家の先駆』を参照いただきたいのだが、この記事では、“春のグレンフィディック、秋のバルヴェニー”とたとえられる香味の違いを生む、バルヴェニーの製法に関してご紹介する。実はわたしはシングルモルト「バルヴェニー12年ダブルウッド」が好きで、よく飲んでいる。滑らかで、はちみつのような甘美さがある。

自家栽培の大麦にフロアモルティング

フロアモルティング

フロアモルティング

さて同じ敷地内にある両蒸溜所だが、まず仕込み水が違う。グレンフィディックはロビーデューの泉、バルヴェニーはコンバル丘陵の数十の泉から湧き出る水を引き込んでいる。同じ軟水でもロビーデューの水に比べると若干硬度が高い。
また自家栽培した大麦を一部使用(全大麦使用量の15%)。バルヴェニー城奥に位置する農地で大麦を栽培している。フロアモルティングをおこない、自前で麦芽製造もする。2日間ほどかけて麦芽を乾燥させ、そのうちの最初の12時間はピートを焚き、その後は無煙炭を焚いて乾燥させるので、ピートの燻香はほのかに香るといった程度のライトピーテッドである。
糖化・濾過によって清澄麦汁を得、ダグラスファー(米松)材の発酵槽に移して発酵させる。発酵時間は長い。およそ72時間。酵母の増殖、死滅、そして熟成期間である乳酸発酵という一連の活動を熟練の職人が管理する。これによりフルーティーでクリーンな酒質を生む。
次ページでは蒸溜、貯蔵熟成、そして職人について紹介する。(次ページへつづく)
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