CSVとCSRは何が違うのか?
近江商人の三方良しに象徴される日本人のDNAはCSVに繋がっている。
CSVとCSRとは社会性という意味では似ていますが、CSRは社会や環境への自社の責任として害を低減する、ステークホルダーとの良好な関係を生み出すためのものです。だから、どの会社でも実際は同じような活動をしています。つまり、本来的な差別化要因とはなりません。
一方、CSVはその企業の持つ強み(経営資源・専門性等)を活かし、資本主義の原理に基づいて、ビジネスとして社会問題を解決するという視点であり、その点で、CSRとCSVでは似て非なるものです。
近江商人から発した「三方良し」の考え方はCSVに繋がる
三方良しとは「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」。売り手と買い手がともに満足し、結果的に社会貢献もできるのがよい商売であるということ。近江商人の心得をいったものです。三方良しは、利害関係者を最重要視し、売上の一部を社会還元するという「富の再配分」(フィランソロピー、慈善活動)ではなく、製品・サービスの提供により、経済価値も社会価値も同時に生み出そうという考え方です。そういう意味では、日本に古くある三方良しという考え方はCSVに通じているのです。
柳井正氏のCSVをベースとしたリーダーシップ
「ユニクロ」を世界展開しているファーストリテイリング社の柳井代表もCSVを取り入れてリーダーシップを発揮しています。柳井氏は事業そのものがCSVであり、それが実現されない限り、世界チャンピオンになれないと考えられているのです。「CSRではなく、これからはCSVの時代だ!」という上っ面のブームなど、全く気に掛けないのでしょう。本質的な意味でのCSVの具現者として、強力なリーダーシップを発揮していると言えるのです。
何が真実なのか、何が善いことなのか、何が美しいことなのか、つまり、真善美という世界に通じる普遍的な価値観を、服を通じて提供して、世界を良い方向へ変えていくこと、これがファーストリテイリング社のCSVなのです。
この価値観をトップのみならず、ミドルや現場の方々まできちんと共有化されていることが卓越した組織力になっています。
私利私欲ではなく、社会的な価値の創造こそが経済的な価値を生むという哲学の下、現場でのひとつひとつのプロセスを大切にするリーダーの真摯な姿勢とコミットメントこそがCSVをベースとしたリーダーシップに繋がることでしょう。
推奨文献:
「CSV経営戦略」名和高志著(東洋経済新報社 2015年10月刊)