東急不動産のハイリノベーション事業
1棟リノベーションは、内装設備にとどまらず、外装や外溝にもリフォームを加えることで資産価値を一段引き上げ、その差益を収益化するビジネスモデルである。老朽化した建物でも外壁塗装や照明、植栽の改善次第で、見違えるほど印象が上がることがある。都心部に限っては、築浅も再販事業者(デベ等)にとってはその対象になりえる。そもそも安定した需要があるのに加え、アベノミクスや外国人観光客の急増により地価が底上げされているから。当サイトで取り上げた「サイオン桜坂」や「白金台フロント」は好例で、1棟は勿論、例え1戸でも付加価値を高める可能性を示している。
さて、大手デベロッパー東急不動産がこの分野に乗り出した。3A(麻布、赤坂、青山)等都心人気エリアに限定、1棟丸ごと買い取ってリノベーションをかけ再販する。「賃貸物件を買い取り、リフォームして分譲する。景況に応じてオーナーチェンジという出口もあり、柔軟性も高い」(同社関係者)。ハイリノベーションと名付けた新規事業は「当面年間100億規模」(同)を目指す。
第一弾「マジェスタワー六本木」
第一号物件は「マジェスタワー六本木」。都営大江戸線「六本木」駅から徒歩4分。東京ミッドタウンから星条旗通りを西に歩いた左手にある。界隈は通りの南側が一段下がっているため(繁華街の一画にありながらも)商業ビルが少ない。国立新美術館の向かいというポジションも魅力的。建物は地下3階地上27階建て、総戸数83戸。2006年2月竣工、築9年である。従前はリート(不動産投資信託)のポートフォリオに組み入れられていたそう。賃料は坪当たり約1.5万円程度。
東急不動産は、退去した住戸から順にリフォームをかけ売却する。専有面積は42.62m2~118.90m2。3段階グレードを設け、リノベーションの範囲と質を変える。すべてに共通しているものはシステムキッチン刷新の他、天井クロス、エアコン、給湯器、床暖房、浴室乾燥機などの交換。窓ガラスは遮熱コーティングを施す。
都心市場の細分化
総戸数と階数から想像できるように、当タワーはワンフロア2~4戸で、しかも100m2超は1割程度。つまり非常にスレンダーな建物となる。アール状を採用した外観デザインは見た目に個性的であるが住戸形状としては制約を受けざるを得ない。施工は鹿島建設だが、直床仕様で天井高は最上階を除き2450mm。賃貸グレードは、替えられない所にも残るというわけだ。しかし前述したように、駅近でありながら雑踏感のない周辺環境や東京ミッドタウンにほど近く、国立新美術館の向かいという恵まれたロケーションにはやはり希少性を思う。さらに、美術館や霊園の緑の借景に、遠くは富士山を望める眺望の良さは大きな特長という他ないだろう。
販売坪単価は@600万円半ばと予定しているという。新築ではまず考えられない設定だ。これを妥当と見るかどうかは、価値観によって異なるだろう。それほど広さを欲しない、とにかく利便が良く落ち着いた環境でアーバンライフを送りたい、そんなニーズの人にとっては検討に値する物件になるだろう。
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